退職所得控除の計算方法——退職金の税金と手取りを1円単位で(定額・定率控除の早見表・定年退職特例・2分の1特例)
「会社を辞めることになった。退職金はいくらもらえて、いくら税金を取られるんだろう?」——人生で数回あるかないかの大きなお金だからこそ、誰もが気になります。ところがネットで「退職所得控除」「退職金 手取り」と検索しても、「いくら税金が引かれるか」を計算式の根拠つきで、1円単位に追っているページは意外と少ないものです。
この記事では、現行の所得税法に基づき、①退職所得控除の「定額・定率控除」の出し方、②「定年退職(60歳以上)なら定率上限が外れる」という大きな特例、③勤続年数で控除額がどう変わるか、④退職金にかかる税額(所得税+復興特別所得税+住民税)と手取りの計算、を整理します。退職金2,000万円(勤続20年)の会社員が定年退職でいくら手元に残るか、普通退職ならどう変わるか、という具体数値例と、「退職金=全部課税される」という誤解の正体まで確認します。
ステップ1:退職金の税金は「もうけ」の一部だけにかかる(退職所得控除)
退職金の税金は、給与や賞与のように「全額にかかる」わけではありません。長年勤めたことへの勤労の対価とみなされ、まず大きな金額が非課税(控除)になります。この仕組みを退職所得控除といいます。
給与等とは違い、退職所得には「2分の1ルール」があります。控除を引いたあと、さらに2で割った額にしか税率が掛かりません。例えば退職金2,000万円で控除が840万円なら、課税のベースは(2,000万−840万)÷2=580万円だけ。残りはそのまま手元に残ります。
ステップ2:退職所得控除額の計算式(定額+定率)
退職所得控除額は、「勤続年数」によって決まる「定額部分」と、収入金額に応じた「定率部分」の合計です(所得税法第30条・30条の2)。
定額部分と定率部分は、勤続年数で次の3区分になります(一時金の場合)。
| 勤続年数 | 定額部分 | 定率部分(収入金額×) | 定率部分の上限 |
|---|---|---|---|
| 20年以下 | 40万円 | 収入金額 × 40% | 80万円 |
| 20年超 〜 25年以下 | 80万円 | 収入金額 × 45% | 160万円 |
| 25年超 | 160万円 | 収入金額 × 50% | 320万円 |
普通の退職では、定率部分は区分ごとに決まった上限(80万/160万/320万円)までで打ち止めです。そのため、退職金が大きいほど「上限に張り付いて」控除額の伸びが鈍ります。
ステップ3:具体数値例——勤続年数・退職金別の控除額
退職金2,000万円を固定して、勤続年数と「定年退職か普通退職か」で控除額がどう変わるか計算します。
| 勤続年数 | 普通退職の控除額(上限あり) | 定年退職の控除額(上限なし) |
|---|---|---|
| 10年 | 40万+min(800万,80万) = 120万円 | 40万+(2,000万×40%) = 840万円 |
| 20年 | 40万+min(800万,80万) = 120万円 | 40万+(2,000万×40%) = 840万円 |
| 25年 | 80万+min(900万,160万) = 240万円 | 80万+(2,000万×45%) = 980万円 |
| 30年 | 160万+min(1,000万,320万) = 480万円 | 160万+(2,000万×50%) = 1,160万円 |
計算式の例(定年退職・勤続20年):
= 40万 + 800万 = 840万円(控除額)
課税退職所得の額 =(20,000,000 − 8,400,000)÷ 2 = 580万円
同じ勤続20年でも普通退職なら、定率部分は上限80万円までなので控除額は120万円(=40万+80万)にまで縮み、課税退職所得の額は(2,000万−120万)÷2=940万円まで跳ね上がります。この差がそのまま税額の差になります。
ステップ4:税額の計算——「半分にしてから」税率を掛ける
ステップ3で出した「課税退職所得の額(半分後の額)」に対して、所得税率(復興特別所得税2.1%込み)と住民税率(10%)を掛けます。退職所得は給与等と別枠で計算されるため、ほかの所得で税率が高くても影響しません。
退職所得の所得税 速算表(課税退職所得の額ベース):
| 課税退職所得の額 | 所得税率 | 控除 |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | — |
| 195万超 〜 330万以下 | 10% | 97,500円 |
| 330万超 〜 695万以下 | 20% | 427,500円 |
| 695万超 〜 900万以下 | 23% | 636,000円 |
| 900万超 〜 1,800万以下 | 33% | 1,536,000円 |
定年退職・勤続20年・退職金2,000万円(課税退職所得の額=580万円)の場合:
=(1,160,000 − 427,500)× 1.021 = 732,500 × 1.021 = 747,463円
住民税 = 5,800,000 × 10% = 580,000円
税額合計 = 747,463 + 580,000 = 1,327,463円(約133万円)
ステップ5:手取りの計算——いくら手元に残るか
退職金から税額を引いたものが手取りです。
もう一つの例、退職金1,000万円・勤続10年の定年退職で計算します。
課税退職所得の額 =(10,000,000 − 4,400,000)÷ 2 = 280万円
所得税(復興込)=(2,800,000 × 10% − 97,500)× 1.021 = 182,500 × 1.021 = 186,332円
住民税 = 2,800,000 × 10% = 280,000円
税額合計 ≒ 466,332円
手取り = 10,000,000 − 466,332 = 9,533,668円(約953万円)
| パターン | 退職金 | 控除額 | 税額合計 | 手取り | 手取り率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 定年退職・勤続20年 | 2,000万円 | 840万円 | 約133万円 | 約1,867万円 | 約93.4% |
| 普通退職・勤続20年 | 2,000万円 | 120万円 | 約254万円 | 約1,746万円 | 約87.3% |
| 定年退職・勤続10年 | 1,000万円 | 440万円 | 約47万円 | 約953万円 | 約95.3% |
「退職金の手取り率は9割前後」が目安です。給与なら3〜4割を持っていかれますが、退職所得控除と「2分の1ルール」のおかげで、税金に取られるのはほんのわずかです(普通退職のように控除が小さくなると8割台まで下がります)。
よくある誤算3つ
- 「退職金2,000万円なら2,000万円まるごと手元に入ると思う」:いいえ、控除を引いたあとの課税退職所得に税金がかかります。ただし控除と2分の1ルールのおかげで、手取りは9割前後(定年退職なら約1,867万円)になります。
- 「退職金にも給与と同じ累進税率がかかると思う」:退職所得には「2分の1ルール」があり、課税退職所得を半分にしてから税率を掛けます。さらに給与等と別枠で計算されるため、ほかの所得で税率が高くても影響しません。
- 「勤続年数が長いほど控除が単純に増えると思う」:普通退職では定率部分に上限(80万/160万/320万円)があり、退職金が大きいと上限に張り付いて控除額の伸びが鈍ります。一方、定年退職(60歳以上)なら上限が外れるため、同じ条件でも控除が840万円(普通退職の120万円と比べ約7倍)になり、手取りに約120万円の差が出ます。
自分の数字で試算する
退職金と手取りの感覚をもっと細かく試したい場合は、以下の記事・ツールが使えます。すべてブラウザ内で計算され、入力内容が外部に送信されることはありません。
- 手取り計算ツール——現役世代の給与手取りとの比較に。
- 退職金とiDeCoの受取タイミングで税金が変わる記事——iDeCoを絡めた場合の落とし穴(10年ルール)。
- 年金受給にかかる税金の記事——老後の年金との税金の違い。
- 住民税と所得税、どちらが高いかの記事——退職の年も両方かかる仕組み。
関連する計算
- 所得税の計算記事:退職所得以外の給与等の所得税のしくみ。
- 住民税の計算記事:退職所得に対する住民税所得割のしくみ。
- 退職金とiDeCoの受取タイミングで税金が変わる記事:iDeCoを先に受け取ると退職所得控除が「復活」する10年ルールの計算。
- 老齢基礎年金の計算記事:退職後の柱になる年金の額の出し方。
- 手取り計算ツール:現役時代の手取り率との比較に。
注意事項
本記事の数値は、所得税法第30条・30条の2に基づく退職所得控除(定額+定率、勤続年数3区分・定率上限あり)、「60歳以上または定年退職」の場合の定率上限不適用の特例、退職所得の「2分の1」ルール、所得税率(復興特別所得税2.1%込み)と住民税率10%の速算表を前提とした単純計算です。実際の税額は、①退職金を一時金で受け取るか年金形式で受け取るか(年金形式は控除額の計算式が異なる)、②年齢・退職理由(定年か否か)、③源泉徴収される前の「収入金額」かどうか、④合併・分割会社等での勤続年数の通算の扱いなどによって変わります。また税額は原則、勤務先が「退職所得の源泉徴収票」で計算・徴収し、年末調整や確定申告は原則不要です(一部のケースを除く)。本記事の数値(例:定率上限80万/160万/320万円、速算表の税率・控除)は2026年8月時点の制度に基づくもので、将来の改正で変動する可能性があります。正確な税額は、お勤め先の総務・経理、または税務署・税理士等の専門家にご確認ください。本記事は情報提供を目的としたもので、個別の税務相談に代わるものではありません。計算はすべてブラウザ内で行われ、入力した情報が外部に送信されることはありません。
よくある質問
退職所得控除って何ですか?
長年勤めたことへの勤労の対価として、退職金のうち一定額を非課税にする仕組みです。退職金からこの控除額を引き、さらに2分の1にした額だけに税金がかかります。控除額は「定額部分」と「定率部分(収入×40%等、通常は上限付き)」の合計で、勤続年数で変わります。
退職金2,000万円の手取りはいくらですか?
定年退職(60歳以上)・勤続20年の会社員なら、退職所得控除は840万円(定率上限なし)、課税退職所得の額(半分)は580万円。所得税(復興税込)約75万円+住民税58万円=税額約133万円で、手取りは約1,867万円(手取り率約93%)になります。普通退職(60歳未満・非定年)なら同じ条件で控除120万円まで縮み、税額約254万円・手取り約1,746万円になります。
定年退職と普通退職でなぜ差が出るのですか?
「60歳以上」または「定年退職」の場合、定率部分の上限(80万/160万/320万円)が適用されなくなる特例があるためです。退職金2,000万円・勤続20年なら、定年なら控除840万円、普通退職なら120万円と約7倍の開きが生じ、手取りに約120万円の差が出ます。
なぜ退職金は「2分の1」するのですか?
退職所得には、控除後の額を2分の1にしてから税率を掛ける特例があります(給与所得にはない優遇)。これに加え、退職所得控除が大きいため、手取り率は9割前後になるのが一般的です。
勤続年数が長いほど控除は増えますか?
はい、区分(20年以下/20年超〜25年以下/25年超)で定額・定率が上がります。ただし普通退職では定率部分に上限があり、退職金が大きいと上限に張り付いて控除額の伸びが鈍るため、単純に比例して増えるわけではありません。
確定申告や年末調整は必要ですか?
原則として不要です。勤務先が「退職所得の源泉徴収票」で税額を計算・徴収します。ただし、複数の退職や特定の条件に当てはまる場合は確定申告が必要になることがあります。詳細は税務署等へご確認ください。