退職金を受け取ったときの手取りはいくら?退職所得控除と税金を1円単位で計算する
「退職金、振り込まれた額を見たら思ったより税金を引かれていなかった。いったいどう計算されてる?」——会社を辞めるとき、この疑問にぶつかる人は多いはずです。退職金には、給与やボーナスにはない「退職所得控除」という特別な控除があり、さらに控除後の額の半分だけに税金がかかるという、他の所得にはない優遇があります。ネットで「退職金 いくら 手元に残る」と検索すると「約9割が手取り」といった曖昧な目安だけが並び、勤続年数と金額から、実際にいくら税金が引かれ・手元にいくら残るのかが書かれていないことがほとんどです。
この記事では、会社員が一時金で退職金を受け取る場合を例に、退職所得控除 → 半額 → 所得税(二分探索速算表)→ 住民税(非課税)の順で、実際の計算式と数値をすべて追います。在職中の自分の毎月の手取りは 手取り計算ツール で確認できます。
結論:勤続25年・退職金3,000万円なら、手取りは約2,845万円(約94.8%)
| 項目 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 退職金総額(一時金) | 30,000,000円 | 賞与・退職金合算後の総支給 |
| 退職所得控除額 | ▲11,500,000円 | 勤続25年の控除(後述) |
| 退職所得の金額 | 9,250,000円 | (総額−控除)÷2 |
| 所得税(復興税込) | ▲約1,548,000円 | 二分探索税率33%区分 |
| 住民税 | 0円 | 退職所得は非課税 |
| 手取り | 約28,452,000円 | 手取り率 約94.8% |
給与なら3,000万円の9割強が税金に消えるところですが、退職金は仕組みのおかげで手取り率が9割を超えます。ただし「控除額」と「勤続年数」できれいに決まるわけではなく、計算には3つのステップがあります。
ステップ1:退職所得控除額は勤続年数できまる
退職所得控除額は、勤続年数(その会社に在籍した年数)に応じた速算表で決まります。
勤続年数が20年以下: 400,000円 × 勤続年数
勤続年数が20年超: 8,000,000円 + 700,000円 ×(勤続年数 − 20)
例の勤続25年なら 8,000,000 + 700,000 × 5 = 11,500,000円。これが退職金から差し引ける「控除」です。
注意点:この控除は「実際にかかった転居費用や求職費用」ではなく、年数に応じて自動で認められる定額の控除です。また、過去に退職金を受け取ったことがある場合は、前の勤続年数も通算されるなど細かいルールがあるため、正確な額は源泉徴収票(退職所得用)で確認してください。
ステップ2:退職所得の金額は「控除後の半分」
ここが退職金最大の特徴です。平成30年(2018年)の税制改正で、退職所得の金額は次のように半分になります。
退職所得の金額 =(退職手当等の総額 − 退職所得控除額)÷ 2
例なら (30,000,000 − 11,500,000)÷ 2 = 9,250,000円。所得税の元になる「課税退職所得」はこの9,250,000円です。給与なら3,000万円全額が課税対象になるのに比べ、ここだけで大きく有利になります。
注意点:この「÷2」は退職金だけの特例です。企業型確定拠出年金(企業型DC)の運用益などは、退職所得ではなく別の課税(公的年金等の雑所得や一時所得)になる場合があり、半額の優遇は必ずしも効きません。
ステップ3:所得税は「二分探索」の速算表で出す
課税退職所得(9,250,000円)に、次の二分探索税率表をあてはめます(他の所得と同じ表です)。
| 課税退職所得 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,950,000円以下 | 5% | — |
| 3,300,000円以下 | 10% | 97,500円 |
| 6,950,000円以下 | 20% | 427,500円 |
| 9,000,000円以下 | 23% | 636,000円 |
| 18,000,000円以下 | 33% | 1,536,000円 |
| 40,000,000円以下 | 40% | 2,796,000円 |
| 40,000,000円超 | 45% | 4,796,000円 |
9,250,000円は「18,000,000円以下」の区分なので、税率33%・控除額1,536,000円です。
9,250,000 × 33% − 1,536,000 = 1,516,500円
これに復興特別所得税2.1%を上乗せします。
1,516,500 × 1.021 ≒ 1,548,347円
注意点:「退職金3,000万円だから税率45%」ではありません。税率が掛かるのは控除して半分にした9,250,000円に対してで、しかも累進課税なので、上位の区分(33%)はその区分内の部分だけに効きます(速算表の控除額がその調整)。総額に直接税率を掛けると、実際の10倍以上の税額を誤算します。
ステップ4:住民税はかからない(非課税)
退職所得に対する住民税(所得割・均等割)は、原則として課税されません(非課税)。そのため、退職金から住民税が引かれることは通常ありません。特別な事情で「退職所得補完税」として特別徴収される場合もありますが、一般的な一時金の受け取りでは住民税はゼロとみて問題ありません。
注意点:住民税がかからないのは「退職所得」の部分だけです。前述の企業年金の運用益など、別の所得として扱われる部分には住民税がかかることがあります。
ステップ5:手取りを合計する
30,000,000 − 1,548,347 = 28,451,653円
手取り率は 約94.8%。よく言われる「退職金の手取りは9割強」は、この年数・金額帯ではほぼ正しい目安です。
もう一つの例:勤続10年・退職金1,000万円
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 退職金総額 | 10,000,000円 |
| 退職所得控除額(400,000×10) | ▲4,000,000円 |
| 退職所得の金額(÷2) | 3,000,000円 |
| 所得税(10%−97,500、復興込) | ▲約206,753円 |
| 住民税 | 0円 |
| 手取り | 約9,793,247円(手取り率約97.9%) |
勤続年数が短いほど控除額が小さくなりますが、それでも半額の優遇があるため、手取り率は9割を大きく超えます。
勤続年数で控除額がどう変わるか(退職金2,000万円の場合)
| 勤続年数 | 控除額 | 課税退職所得 | 所得税(復興込) | 手取り率 |
|---|---|---|---|---|
| 10年 | 4,000,000円 | 8,000,000円 | 約1,811,000円 | 約91.0% |
| 20年 | 8,000,000円 | 6,000,000円 | 約1,248,000円 | 約93.8% |
| 30年 | 15,000,000円 | 2,500,000円 | 約302,000円 | 約98.5% |
同じ2,000万円でも、勤続30年なら控除が大きく税額が激減し、手取り率が98.5%まで跳ね上がります。「長く勤めた分だけ、手元に残る割合が高い」のが退職金の仕組みです。
よくある誤算3つ
- 総額に税率を掛けてしまう:退職金は控除→半額を経てから税率が掛かります。3,000万円に33%を掛けると約1,000万円の税額を誤算します(実際は約155万円)。
- 住民税も引かれると思い込む:退職所得は住民税非課税です。手取りを過小に見積もると、退職後の資金計画が保守的すぎます。
- 企業年金を退職金と混同する:確定拠出年金の運用益などは、退職所得ではなく別の所得(公的年金等の雑所得や一時所得)として課税される場合があり、半額優遇が効かないことがあります。給与天引きの「企業年金」と「退職一時金」は別枠で確認しましょう。
手元の家計・生活設計にどう組み込むか(次の一手へ)
- 退職後の生活設計:退職金の手取りをどう配分するかは、毎月の生活費の見通しとセットです。在職中の手取りの内訳(給与所得控除・社会保険料・所得税・住民税)は 年収500万円の手取りを1円単位で分解した記事 にまとめています。
- 退職金を運用する:手元に残った資金を年利3%で20年運用すると元本の約1.8倍に。試算は 複利積立シミュレーション で。
- 住宅ローン控除との関係:退職年近くに住宅を取得している場合、控除の順序が変わります。詳細は 住宅ローン控除で住民税が普通徴収になる理由を解説した記事 を。
- 給与所得控除との違い:在職中の「給与所得控除」とは計算の仕組みが異なります。比較は 給与所得控除を計算した記事 で。
- 退職後のふるさと納税:年収が下がっても住民税の仕組みは続くため、上限の目安は ふるさと納税 上限目安ツール で毎年確認を。
注意事項
本記事の数値は概算のシミュレーションです。実際の税額は、退職所得控除額(過去の勤続年数の通算や、旧制度からの経過措置による上限)、受け取る形態(一時金か年金か)、企業年金等の別枠課税の有無、さらに源泉徴収と確定申告の違い(退職年は還付・追徴が生じることがある)によって数万〜数百万円単位で変わります。正確な金額は、会社から渡される退職所得の源泉徴収票と、必要に応じて税務署・税理士等の専門家にご確認ください。制度の詳細は国税庁の公式情報が最終的な根拠になります。
在職中の自分の手取りを同じロジックで見たい場合は 手取り計算ツール へ。すべてブラウザ内で計算し、入力した金額はどこにも送信されません。
よくある質問
退職金の税金はいくら引かれるの?
退職金総額から退職所得控除額(勤続年数できまる)を引き、その半分の額に二分探索の所得税率を掛け、復興特別所得税2.1%を加算したものが所得税です。例えば退職金3,000万円・勤続25年なら所得税は約155万円、住民税は0円で、手取りは約2,845万円(手取り率約94.8%)になります。正確な額は退職所得の源泉徴収票で確認してください。
退職金に住民税はかかる?
原則としてかかりません(非課税)。退職所得に対する住民税の所得割・均等割は課税されないため、一般的な一時金の受け取りでは手取りから住民税が引かれることはありません。ただし企業年金の運用益など別枠で課税される部分には住民税がかかることがあります。
勤続年数が長いほど控除は大きくなる?
はい。勤続20年以下は40万円×年数、20年を超えると800万円+70万円×(年数−20)の控除になります。同じ退職金2,000万円なら、勤続10年で手取り率約91%、勤続30年で約98.5%と、長く勤めるほど手元に残る割合が高くなります。
退職金を分割でもらうと税額は変わる?
退職所得は年分離課税のため、基本的に受け取った年の所得として計算します。一時金で受け取るか、年金形式で受け取るかで課税方式が異なり、年金形式の場合は公的年金等の雑所得として別の計算になることがあります。受け取り方の税効率はケースごとに変わるため専門家にご相談ください。
企業年金(確定拠出年金等)も退職所得?
一道が異なる場合があります。企業型確定拠出年金の運用益などは、退職所得ではなく公的年金等の雑所得や一時所得として課税されることがあり、半額の優遇(控除→÷2)が必ずしも効きません。退職一時金と企業年金は別枠で確認するのが確実です。