任意継続と国民健康保険どちらが安い? 分岐点は年収491万円(40歳以上は463万円)——会社都合なら国保が年23万円安くなる計算根拠
「会社を辞めたあとの健康保険、任意継続と国民健康保険(国保)はどっちが安いの?」「任意継続は保険料が2倍になると聞いたけど本当?」「退職から何日以内に決めないといけないの?」——退職・転職の空白期間、早期退職、定年退職を控えた人が必ずぶつかる分岐です。しかも任意継続の申請期限は退職日の翌日から20日以内と極端に短く、迷っているうちに選択肢が片方消えます。
ところがネット上の解説は「収入が高い人は任意継続が有利」といった方向性だけで、いくら違うのかを示しません。実際に必要なのは「自分の年収なら年間いくら差が出るか」「どちらが安くなる境界の年収はいくらか」という数字です。
この記事では、①任意継続と国保の保険料計算式、②年収別・年齢別の具体額と逆転する分岐点の年収、③会社都合退職なら国保が激安になる軽減特例、④扶養家族がいる場合に結論が変わる理由、⑤2022年改正で任意継続がいつでも脱退できるようになった影響、を順に整理します。計算はすべてブラウザ内で完結し、入力した金額が外部へ送信されることはありません。
そもそも退職後の健康保険は4択
会社を辞めると、退職日の翌日に健康保険の被保険者資格を失います。無保険期間を作らないために、次の4つから選びます。
| 選択肢 | 保険料の決まり方 | 期限・要件 |
|---|---|---|
| ①任意継続被保険者 | 退職時の標準報酬月額 × 保険料率(全額自己負担)。上限は標準報酬月額30万円相当 | 退職日の翌日から20日以内に申請。加入は最長2年。継続2か月以上の被保険者期間が必要 |
| ②国民健康保険(国保) | 前年の所得を基に、市区町村ごとの料率で計算(所得割+均等割)。世帯人数分かかる | 退職日の翌日から14日以内に市区町村で手続き(遅れても加入は退職日翌日に遡る=保険料も遡って発生) |
| ③家族の被扶養者になる | 保険料0円 | 年間収入見込み130万円未満(60歳以上・障害者は180万円未満)かつ扶養者の収入の半分未満 |
| ④再就職先の健康保険 | 新しい標準報酬月額の半額(会社が半分負担) | 入社日から加入。空白期間があればその分だけ①②③が必要 |
③が使えるなら③が最強です(保険料0円)。失業手当の日額が3,612円未満なら年収換算130万円未満なので扶養に入れる可能性があります(日額3,612円 × 360日 = 1,300,320円が境界)。逆に日額3,612円以上の失業手当を受ける間は扶養に入れず、受給終了後に入るという二段構えになります。
この記事が扱うのは、③が使えない多数派の①任意継続 vs ②国保の比較です。
任意継続の保険料の計算式(「2倍になる」の正体)
保険料率 = 健康保険料率(協会けんぽ全国平均10.00%前後)+ 介護保険料率1.59%(40〜64歳のみ)
在職中は健康保険料を会社と本人が半分ずつ負担しています(労使折半)。退職して任意継続になると会社負担分がなくなり全額自己負担になるため、給与明細で見ていた控除額が単純に2倍になります。これが「任意継続は2倍」と言われる理由で、制度が高いのではなく会社の肩代わりが消えるだけです。
ただし任意継続には強力な上限があります。保険料の算定基礎となる標準報酬月額は退職時の額と、その保険者の全被保険者の平均額(協会けんぽは30万円)のいずれか低い方で決まります。つまり退職時の月給が50万円でも80万円でも、標準報酬月額30万円として計算されるのです。
40〜64歳:300,000円 × 11.50% = 月34,500円 → 年414,000円(上限)
この「頭打ち」が、高所得者ほど任意継続が有利になる決定的な理由です。国保には所得割の上限(年65万円+支援金24万円)はあるものの、はるかに高い位置にあります。
※ 保険料率は保険者(協会けんぽ/各健康保険組合)と都道府県ごとに異なります。健康保険組合の場合は平均標準報酬月額が30万円より高いことも多く、上限額も変わります。本記事は協会けんぽの全国平均10.00%相当(本人+事業主で9.91%表記の県を例示)と介護分1.59%を用いた概算です。
国民健康保険の保険料の計算式(前年所得がすべて)
国保は市区町村(都道府県単位化後は都道府県+市区町村)が運営し、保険料は3つの区分 × 2つの割で構成されます。
所得割 = (前年の総所得金額等 − 基礎控除43万円) × 料率
均等割 = 加入者1人あたりの定額
本記事では、東京都区部に近い水準として次の料率・均等割を用います(自治体によって1〜2割の幅があります)。
| 区分 | 所得割料率 | 均等割(1人あたり) | 年間上限 |
|---|---|---|---|
| ①医療分 | 7.17% | 47,300円 | 650,000円 |
| ②後期高齢者支援金分 | 2.42% | 16,800円 | 240,000円 |
| ③介護納付金分(40〜64歳) | 2.20% | 16,600円 | 170,000円 |
ここで決定的に重要なのが「所得割の基礎は年収ではなく前年の総所得金額等」という点です。給与所得者なら年収から給与所得控除を引いた額が総所得金額等になります。
算定基礎 = 給与所得 − 基礎控除43万円
例:年収450万円 → 給与所得控除134万円 → 給与所得316万円 → 算定基礎273万円。
この273万円に上記料率をかけ、均等割を足したものが国保保険料になります。
支援金分:2,730,000 × 2.42% + 16,800 = 82,866円
合計(40歳未満)= 325,907円(月あたり約27,159円)
介護分:2,730,000 × 2.20% + 16,600 = 76,660円
合計(40〜64歳)= 402,567円
「国保は前年所得で決まる」ことの怖さ:退職1年目は働いていた年の高い所得で保険料が計算されます。収入が途絶えているのに保険料は現役水準——ここで任意継続の上限が効いてくるわけです。逆に退職2年目は前年(退職した年)の所得が低いため国保が激安になり、任意継続2年目より安くなるケースが大半です。
年収別の具体数値例と「分岐点」(単身・退職1年目)
退職時の標準報酬月額は年収の1/12相当(上限30万円)とし、国保は前述の料率で計算しました。すべて年額です。
| 退職前の年収 | 国保(40歳未満) | 任意継続(40歳未満) | 差額 | 安いのは |
|---|---|---|---|---|
| 300万円 | 216,581円 | 237,840円 | 21,259円 | 国保 |
| 450万円 | 325,907円 | 356,748円 | 30,841円 | 国保 |
| 491万円(分岐点) | 357,362円 | 356,748円 | ほぼ同額 | — |
| 500万円 | 364,267円 | 356,748円 | 7,519円 | 任意継続 |
| 600万円 | 440,987円 | 356,748円 | 84,239円 | 任意継続 |
| 800万円 | 607,853円 | 356,748円 | 251,105円 | 任意継続 |
| 退職前の年収 | 国保(40〜64歳) | 任意継続(40〜64歳) | 差額 | 安いのは |
|---|---|---|---|---|
| 300万円 | 268,161円 | 276,000円 | 7,839円 | 国保 |
| 450万円 | 402,567円 | 414,000円 | 11,433円 | 国保 |
| 463万円(分岐点) | 414,828円 | 414,000円 | ほぼ同額 | — |
| 500万円 | 449,727円 | 414,000円 | 35,727円 | 任意継続 |
| 600万円 | 544,047円 | 414,000円 | 130,047円 | 任意継続 |
| 800万円 | 749,193円 | 414,000円 | 335,193円 | 任意継続 |
分岐点が40歳以上で下がる(491万円→463万円)のは、国保の介護納付金分(所得割2.20%+均等割16,600円)の伸びが、任意継続の介護保険料率1.59%の伸び(上限で固定)より速いためです。40代以降は「任意継続が有利」に傾きやすいと覚えておくとよいでしょう。
会社都合退職なら結論がひっくり返る:国保の軽減特例
ここが本記事で最も価値のある部分です。倒産・解雇・雇止めなどの「非自発的失業」で離職した人は、国保の所得割の計算において前年の給与所得を30/100(3割)とみなす特例が適用されます(国民健康保険法施行令の軽減措置)。
この軽減は離職日の翌日から翌年度末まで(最長2年度)適用されます。適用要件は、離職時点で65歳未満かつ、雇用保険受給資格者証の離職理由コードが11・12・21・22・23・31・32・33・34のいずれかであることです。
| 退職前の年収 | 年齢 | 軽減後の国保 | 任意継続 | 差額 | 安いのは |
|---|---|---|---|---|---|
| 450万円 | 40歳未満 | 113,776円 | 356,748円 | 242,972円 | 国保 |
| 450万円 | 40〜64歳 | 141,772円 | 414,000円 | 272,228円 | 国保 |
| 600万円 | 40歳未満 | 148,300円 | 356,748円 | 208,448円 | 国保 |
| 600万円 | 40〜64歳 | 184,216円 | 414,000円 | 229,784円 | 国保 |
なお、この軽減は国保だけの制度で、任意継続にはありません。また自己都合退職(コード40番台)には適用されないため、自己都合の人は前掲の分岐点(491万円/463万円)で判断します。
扶養家族がいると結論が変わる(国保は人数課金)
もう一つの決定的な違いが家族の扱いです。
| 任意継続 | 国民健康保険 | |
|---|---|---|
| 家族の保険料 | 0円(被扶養者として何人でも追加できる) | 1人ずつ均等割+所得割が加算(世帯合算) |
| 家族1人あたりの追加額 | 0円 | 均等割 47,300+16,800 = 年64,100円(所得なしの場合) |
専業主婦(夫)の配偶者と子ども2人を扶養している場合、国保では本人分+3人×64,100円=年192,300円の追加が発生します。任意継続なら追加0円です。
国保:402,567円 + 均等割3人分 192,300円 = 594,867円
任意継続:414,000円
→ 任意継続が年180,867円安い
先ほど「年収450万円なら国保が安い」と結論した同じケースが、扶養3人がいるだけで任意継続有利に逆転します。つまり判断軸は次の2つの掛け算です。
- 前年所得が高いほど任意継続有利(任意継続は上限で固定)
- 扶養家族が多いほど任意継続有利(国保は人数課金)
- 逆に会社都合退職なら国保の3割軽減が両方の効果を上回ることが多い
※ 国保にも均等割の軽減(世帯の所得が一定以下なら7割・5割・2割軽減)や未就学児の均等割半額があります。低所得世帯ではこの軽減が効くため、実額は表よりさらに下がる可能性があります。
任意継続 vs 国保 比較シミュレーター
退職前の年収、退職時の標準報酬月額、年齢区分、扶養家族の人数、離職理由を入れると、両方の年間保険料と差額、どちらが安いかを計算します。すべてブラウザ内で処理し、入力した金額はどこにも送信されません。
手続きの期限と落とし穴(20日/14日/2022年改正)
| 項目 | 任意継続 | 国民健康保険 |
|---|---|---|
| 申請期限 | 退職日の翌日から20日以内(1日遅れると受け付けられない) | 退職日の翌日から14日以内(遅れても遡って加入・遡って保険料発生) |
| 加入期間 | 最長2年(2022年1月以降は任意のタイミングで脱退可) | 制限なし |
| 保険料の納付 | 毎月10日までに納付。1日でも滞納すると即資格喪失 | 滞納しても即資格喪失にはならない(督促・延滞金) |
| 傷病手当金・出産手当金 | 原則なし(退職前から受給中の継続給付は例外) | なし |
| 保険料の前納割引 | 6か月・12か月前納で年4%相当の割引あり | 自治体により口座振替割引など(多くはなし) |
2022年1月の改正で任意継続が使いやすくなりました。以前は「就職するか2年経つか保険料を滞納するか」しか脱退方法がなく、途中で国保に移ることができませんでした。改正後は本人の申出でいつでも資格喪失できるため、次の戦略が使えます。
乗り換えのタイミングは3月末を意識してください。国保は4月〜翌3月が保険年度で、4月に新年度の保険料が決まります。任意継続の資格喪失は申出書が保険者に到達した日の属する月の末日で成立するので、3月中に申出書を出して3月末に喪失し、4月1日から国保という流れが最もきれいです。
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注意事項
本記事の数値は、健康保険法に基づく任意継続被保険者制度(保険料は退職時の標準報酬月額と保険者の全被保険者の平均標準報酬月額のいずれか低い方に保険料率を掛けた全額自己負担、加入は最長2年、申請は退職日の翌日から20日以内)および国民健康保険法に基づく保険料算定(前年の総所得金額等から基礎控除43万円を差し引いた額に所得割料率を掛け、加入者数に応じた均等割を加算)を前提とした単純計算です。本記事で用いた料率(医療分7.17%・均等割47,300円、後期高齢者支援金分2.42%・均等割16,800円、介護納付金分2.20%・均等割16,600円、任意継続9.91%/介護込11.50%)は例示であり、実際の料率・均等割・賦課限度額は市区町村および保険者(協会けんぽ・各健康保険組合)ごと、年度ごとに異なります。低所得世帯の均等割軽減(7割・5割・2割)、未就学児の均等割半額、非自発的失業者の軽減特例(給与所得を30/100とみなす措置)の適用可否、被扶養者の認定要件、退職金・不動産所得・年金など給与以外の所得がある場合の算定、前納割引の実額は個別の事情および制度改正によって変わります。正確な保険料額と選択の可否は、必ずお住まいの市区町村の国民健康保険窓口および退職前に加入していた健康保険の保険者にご確認ください。本記事は情報提供を目的としたもので、個別の社会保険相談・税務相談に代わるものではありません。計算はすべてブラウザ内で行われ、入力した情報が外部に送信されることはありません。
よくある質問
任意継続と国民健康保険、どちらが安いですか?
単身・40歳未満なら退職前の年収およそ491万円が分岐点で、それ以下は国保、それ以上は任意継続が安くなります。40〜64歳(介護保険料あり)なら分岐点は約463万円です。任意継続の保険料は標準報酬月額30万円で頭打ち(40歳未満で年356,748円、40〜64歳で年414,000円)になるため、年収が高いほど任意継続が有利になります。
会社都合で退職した場合はどうなりますか?
国保の所得割の計算で前年の給与所得を30/100とみなす軽減特例が使えるため、ほぼ確実に国保が安くなります。年収600万円・40〜64歳なら軽減後の国保184,216円に対し任意継続414,000円で、年229,784円(2年で約46万円)国保が安いです。雇用保険受給資格者証の離職理由コードが11・12・21・22・23・31・32・33・34であることが要件です。
任意継続の保険料はなぜ2倍になるのですか?
在職中は健康保険料を会社と本人で半分ずつ負担していますが、退職して任意継続になると会社負担分がなくなり全額自己負担になるためです。制度が割高なのではなく、会社の肩代わりが消えるだけです。ただし算定に使う標準報酬月額は退職時の額と保険者の平均額(協会けんぽは30万円)の低い方なので、月給50万円以上だった人は2倍にはなりません。
扶養家族がいる場合はどちらが得ですか?
任意継続が有利になりやすいです。任意継続は被扶養者を何人追加しても保険料が増えませんが、国保は加入者1人ごとに均等割(本記事の例で年64,100円)が加算されます。年収450万円・40歳・扶養3人なら国保594,867円に対し任意継続414,000円で、任意継続が年180,867円安くなります(単身なら国保が安いケースが逆転します)。
手続きの期限はいつまでですか?
任意継続は退職日の翌日から20日以内で、1日でも遅れると受け付けられません。国保は退職日の翌日から14日以内ですが、遅れても加入日は退職日翌日に遡り保険料も遡って発生します。任意継続の期限が極端に短いため、退職前に試算を済ませておく必要があります。
任意継続は途中で国保に変更できますか?
できます。2022年1月の改正で、本人の申出によりいつでも資格喪失できるようになりました。国保は前年所得で決まるため、退職2年目は所得が下がって国保が激安になります。1年目は任意継続、2年目(4月)から国保に乗り換えるのが最安ルートになることが多く、年収600万円・40歳の例では2年目の乗り換えだけで約33万円節約できます。
任意継続の保険料を払い忘れるとどうなりますか?
その月の初日に遡って資格を失います。納付期限は毎月10日(休日なら翌営業日)で、1回の滞納でも救済されません。保険証が無効になったことに気づかず受診すると医療費が10割負担になるため、口座振替または6か月・12か月の前納(年4%相当の割引つき)を必ず設定してください。
家族の扶養に入れるのはどんな場合ですか?
年間収入見込みが130万円未満(60歳以上・障害者は180万円未満)で、かつ扶養者の収入の半分未満であることが条件です。保険料は0円なので使えるなら最優先です。失業手当を受給している間は日額3,612円以上だと年収換算130万円を超えるため扶養に入れません(3,612円×360日=1,300,320円が境界)。受給終了後に扶養に入る二段構えが使えます。
国保は前年所得で決まるとどう不利なのですか?
退職1年目は働いていた年の高い所得で保険料が計算されるため、収入が途絶えているのに現役水準の請求が来ます。年収600万円・40〜64歳なら年544,047円(月45,337円)です。この局面では上限のある任意継続(年414,000円)のほうが安く、2年目に所得が下がってから国保へ移るのが合理的です。
任意継続でも傷病手当金はもらえますか?
原則もらえません。任意継続被保険者は傷病手当金・出産手当金の対象外です(退職前から受給していた場合の継続給付は例外的に受けられます)。高額療養費や療養の給付(3割負担)は在職中と同じように使えるため、日常の医療費の面では在職中と変わりません。