繰り上げ返済は「期間短縮」と「返済額軽減」どちらが得? 300万円で利息削減額を比べる
「ボーナスで300万円貯まった。繰り上げ返済しようと思うけれど、期間短縮型と返済額軽減型のどちらを選べばいいのか分からない」——銀行の画面には両方のボタンが並んでいるだけで、どちらがいくら得なのかは書かれていません。検索しても「期間短縮型のほうが得です」と結論だけ書かれた記事が並び、いくら差が出るのかが数字で示されていないことがほとんどです。
この記事では、借入3000万円・金利1.5%・35年という典型的な条件で、5年目に300万円を繰り上げ返済した場合の利息削減額を両方式で実際に計算し、さらに「いつ返すか」「住宅ローン控除がある間はどうするか」まで具体数値で確認します。自分の借入条件で試したい場合は 住宅ローン計算ツール に金額を入れれば、同じ計算式で月々の返済額と総返済額が出ます。
結論:利息の削減額は期間短縮型が約2.1倍
| 方式 | 繰り上げ後の月返済 | 残り返済期間 | 利息の削減額 |
|---|---|---|---|
| 繰り上げしない | 91,855円 | 30年(360回) | — |
| 期間短縮型 | 91,855円(変わらず) | 25年11ヶ月(311回) | 約1,562,000円 |
| 返済額軽減型 | 81,502円(▲10,353円) | 30年(変わらず) | 約727,000円 |
同じ300万円を投じても、期間短縮型は利息を約156万円、返済額軽減型は約73万円削減します。差は約83万円(2.1倍)。一方で返済額軽減型は月々10,353円・年間124,236円の固定費が確実に減ります。どちらが「得」かは金額だけでは決まりません。順に計算で確かめます。
前提条件と月返済額の計算式
元利均等返済の毎月返済額は次の式で決まります(元利均等と元金均等の違いの解説も参照)。
毎月返済額 = 借入額 × 月利 ÷ {1 −(1 + 月利)−返済回数}
月利 = 年利 ÷ 12 = 1.5% ÷ 12 = 0.125%(0.00125)
借入3000万円・420回(35年)なら
30,000,000 × 0.00125 ÷ {1 −(1.00125)−420}= 91,855円
総返済額は 91,855 × 420 = 38,579,239円(利息は約858万円)です。この状態から5年(60回)返済した時点の残高は、毎月「残高に月利を掛けて利息を足し、返済額を引く」計算を60回繰り返して求めます。
5年後の残高 = 26,615,460円
ここが誤解の多いポイント:5年で返した総額は 91,855 × 60 = 約551万円ですが、残高は3000万円から約338万円しか減っていません。差額の約213万円は利息です。元利均等返済は序盤ほど返済額の中身が利息に偏るため、「5年も払ったのに元本が減らない」という体感は正しいのです。だからこそ序盤の繰り上げ返済ほど効くという結論につながります。
方式A:期間短縮型(返済額はそのまま、期間を縮める)
残高26,615,460円から300万円を繰り上げると、残高は 23,615,460円。月返済額91,855円を維持したまま返済を続けると、完済までは311回で終わります。
繰り上げなし:残り360回 × 91,855円 = 33,067,919円
期間短縮型:以後の支払 28,505,874円 + 繰上げ 3,000,000円 = 31,505,874円
削減額 = 33,067,919 − 31,505,874 = 1,562,045円
返済期間は 360回 → 311回で49ヶ月(4年1ヶ月)短縮。定年前に完済したい人にとっては、この「終わりが4年早まる」効果そのものが目的になります。
注意点:月々の返済額は1円も下がりません。繰り上げ返済に300万円を使った直後から、家計の負担は以前とまったく同じです。手元資金を減らしたぶん、収入が下がったときの耐久力は落ちます。
方式B:返済額軽減型(期間はそのまま、月々を軽くする)
同じ残高23,615,460円を、残り360回で返す前提で月返済額を再計算します。
23,615,460 × 0.00125 ÷ {1 −(1.00125)−360}= 81,502円
月返済は 91,855円 → 81,502円(▲10,353円、年間で▲124,236円)。
返済額軽減型:81,502円 × 360回 = 29,340,621円 + 繰上げ 3,000,000円 = 32,340,621円
削減額 = 33,067,919 − 32,340,621 = 727,298円
削減額は期間短縮型の約47%にとどまります。理由は「利息が発生する期間が残ったまま」だからです。期間短縮型は最後の49ヶ月ぶんの利息をまるごと消しますが、返済額軽減型は30年という期間を維持するため、その期間に発生する利息は減っても消えません。
それでも返済額軽減型が合理的なケース:削減額の差83万円は、30年にわたって毎月10,353円の余裕を確保するための対価と読み替えられます。育児期で支出が読めない、共働きの片方が退職する可能性がある、変動金利で将来の返済額上昇が怖い——こうした場合、月々の固定費を下げておくことは金額以上の安心につながります。
「いつ返すか」で効果は3倍以上変わる
同じ100万円を繰り上げた場合の利息削減額を、返済開始からの経過年数別に計算すると次のとおりです(期間短縮型・条件は上記と同じ)。
| 繰り上げ時期 | 利息の削減額 | 短縮される期間 |
|---|---|---|
| 5年目 | 約552,000円 | 16ヶ月 |
| 10年目 | 約441,000円 | 15ヶ月 |
| 15年目 | 約338,000円 | 14ヶ月 |
| 20年目 | 約242,000円 | 13ヶ月 |
| 25年目 | 約153,000円 | 12ヶ月 |
5年目に返せば約55万円、25年目なら約15万円。時期が20年違うと効果は3.6倍の差になります。繰り上げ返済で消えるのは「これから発生する利息」なので、残り期間が長いほど得です。「まとまった額になってから」と待つあいだに、効果は毎月削られていきます。
住宅ローン控除がある間は繰り上げるべきか
ここを飛ばすと判断を間違えます。住宅ローン控除は年末残高の0.7%が所得税・住民税から差し引かれる制度です(住宅ローン控除の計算根拠の解説)。繰り上げ返済で残高を減らすと、この控除額も減ります。
繰り上げの実質的な得 = 削減できる利息(借入金利ぶん) − 減ってしまう控除(残高 × 0.7%)
300万円を繰り上げた場合の、控除期間中1年あたりの損得はおおまかに次のようになります。
| 借入金利 | 1年で減る利息(300万円ぶん) | 1年で減る控除 | 差引き |
|---|---|---|---|
| 1.5% | 約45,000円 | 約21,000円 | +24,000円(得) |
| 0.7% | 約21,000円 | 約21,000円 | ほぼ±0 |
| 0.4% | 約12,000円 | 約21,000円 | ▲9,000円(損) |
判断の目安は「借入金利が0.7%を超えているか」です。金利1.5%なら控除期間中でも繰り上げにプラスの効果がありますが、変動0.4%台の低金利で借りている場合は、控除期間(13年)が終わるまで待ってから繰り上げるほうが有利になります。
注意点:繰り上げ返済で返済期間が10年未満になると住宅ローン控除の適用要件を満たさなくなり、控除が完全に消えます。期間短縮型を繰り返すと、残り期間が10年を切った瞬間に年数十万円の控除を失うことがあります。控除期間中の期間短縮型は、残り期間を必ず確認してください。
繰り上げ返済より先にやるべきこと
- 緊急資金の確保:生活費6ヶ月分(手取り月30万円なら180万円)が手元にない状態での繰り上げは危険です。繰り上げた資金は原則として引き出せず、いざというときに年15%のカードローンを使うことになれば、1.5%の利息を節約した意味が消えます。
- 高金利の借入の返済:自動車ローン(2〜5%)、カードローン(14〜18%)、リボ払いがあるなら、住宅ローンより先にそちらを消すのが常に正解です。削減できる利息が桁違いです。
- 3年以内の大きな支出の確認:教育費、車の買い替え、リフォーム。予定があるなら現金を残します。
- 団体信用生命保険(団信)の性質を理解する:団信はローン残高に対して保障されるため、繰り上げ返済で残高が減ると保障額も減ります。極端に言えば、繰り上げ返済は「万一のときに免除されるはずだった金額」を先に自分で払う行為です。
具体的な使い分けの結論
- 定年までに完済したい/総支払を最小にしたい → 期間短縮型。上の例で利息削減は約156万円、完済は4年1ヶ月早まります。
- 収入が不安定・支出が増える時期 → 返済額軽減型。削減額は約73万円に落ちますが、月10,353円の固定費削減が30年続きます。
- 借入金利が0.7%未満で住宅ローン控除の期間中 → 繰り上げず、控除終了後まで待つ。控除の減少が利息削減を上回ります。
- 手元資金が生活費6ヶ月分未満 → 繰り上げない。流動性を失うリスクが利息削減より重いです。
よくある誤算4つ
- 「300万円繰り上げたから300万円得した」と思う:得したのは利息の削減額(約156万円)で、元本300万円は本来払う予定だったお金を前倒ししただけです。
- 返済額軽減型を選んだのに、浮いた1万円を使い切る:月10,353円を貯蓄や積立に回さなければ、削減額73万円のメリットは家計から消えます(複利積立シミュレーションで、月1万円を年利3%・30年積み立てると約583万円になることが確認できます)。
- まとまるまで待つ:5年目の100万円は約55万円、25年目は約15万円の効果。待つほど効果は減ります。小口の繰り上げが無料の金融機関なら、こまめに返すほうが有利です。
- 控除の期間要件を見落とす:期間短縮型で残り期間が10年未満になると、住宅ローン控除そのものが使えなくなります。
関連ツールで自分の数字を確かめる
自分の借入条件での月返済額・総返済額は 住宅ローン計算ツール で確認できます。返済方式そのものの違いは元利均等と元金均等の総額比較、控除の計算根拠は住宅ローン控除の解説にまとめています。返済に回せる金額の上限を知るには 手取り計算ツール(内訳の根拠は年収500万円の手取り分解)、繰り上げず投資に回す選択肢を比べるなら 複利積立シミュレーション(考え方は20年積立の解説)が使えます。いずれもブラウザ内で計算し、入力した金額はどこにも送信されません。
注意事項
本記事の数値は元利均等返済の計算式に基づく概算のシミュレーションです(借入3000万円・年利1.5%・35年・ボーナス返済なし・繰り上げ手数料0円として計算)。実際の返済額は金融機関の端数処理、固定・変動の金利変動、繰り上げ手数料、団信の条件によって変わります。住宅ローン控除の控除率・上限額・適用要件(返済期間10年以上、床面積、所得要件、入居年など)は制度改正で変更されるため、必ず最新の国税庁の情報および契約している金融機関の返済予定表でご確認ください。本記事は情報提供を目的とするもので、個別の税務・金融アドバイスに代わるものではありません。
自分の借入額・金利・期間で試算するには 住宅ローン計算ツール へ。すべてブラウザ内で計算し、入力した金額はどこにも送信されません。
よくある質問
期間短縮型と返済額軽減型はどちらが得ですか?
利息の削減額だけで比べると期間短縮型が有利です。借入3000万円・金利1.5%・35年で5年目に300万円を繰り上げた場合、期間短縮型の利息削減は約156万円、返済額軽減型は約73万円で、約2.1倍の差になります。期間短縮型は元本を減らしたうえで返済期間そのものを縮めるため、利息が発生する期間が消えるためです。
それでも返済額軽減型を選ぶ意味はありますか?
あります。返済額軽減型は毎月の返済額が下がるため、収入減・転職・育児など将来のキャッシュフローが不安な家庭では防御力が上がります。上の例では月々10,353円軽くなり、家計の固定費が確実に下がります。削減額の差(約83万円)を「毎月の余裕を買う保険料」と考えるかどうかの判断です。
繰り上げ返済は早いほど効果が大きいですか?
はい。同じ100万円を繰り上げても、5年目なら利息削減は約55万円、25年目なら約15万円で3倍以上の差があります。繰り上げ返済で消えるのは「これから発生する利息」なので、残りの期間が長いほど効果が大きくなります。
住宅ローン控除がある間は繰り上げ返済しないほうがいい?
多くの場合そうなります。住宅ローン控除は年末残高の0.7%が所得税・住民税から控除されるため、借入金利が0.7%を下回るローン(変動0.4%台など)では、繰り上げると控除の減少額が利息の削減額を上回り逆に損になります。金利1.5%なら差引きでプラスなので繰り上げる価値がありますが、控除期間中は効果が目減りします。
繰り上げ返済より手元資金を残すべきケースは?
生活費6ヶ月分の緊急資金がない場合、教育費や車の買い替えが3年以内に控えている場合、金利が0.5%未満で投資に回す選択肢がある場合です。繰り上げ返済した資金は原則として戻せないため、返済してから生活費が足りず高金利のカードローンを使うのが最悪のパターンです。
繰り上げ返済に手数料はかかりますか?
ネット手続きなら無料の金融機関が多いですが、窓口手続きや固定金利期間中の繰り上げは数千円〜数万円の手数料がかかる場合があります。また団体信用生命保険(団信)は残高に対して保障されるため、繰り上げると保障額も減ります。契約している金融機関の条件を確認してください。