銀行預金は本当に増えている? インフレを差し引いた「実質金利」を1円単位で計算
「銀行預金は安全で、少しずつ増える」——そう思って100万円を普通預金に置いていませんか? でも、金利0.02%の預金は、インフレ率2%を差し引くと実質金利は −1.98%。1年預けても利息は200円しかつかず、同じモノの値段が2万円分上がるため、購買力は約1万9,800円分目減りしています。ネットで「銀行預金 目減り」「実質金利 とは」と検索すると用語解説は出てきますが、「自分の預金額で、インフレを差し引くと実質いくら減るか」を1円単位で計算している記事は意外と少ないものです。
この記事では、もっとも典型的な銀行預金100万円・名目金利0.02%・インフレ率2%を例に、実質金利=名目金利−インフレ率という式の根拠から出発し、複数年の複利による目減り、利子への約20.315%の課税がどう効くか、そして「借金(住宅ローン)はインフレで得をするのに、預金は損をする」という非対称を、具体数値で確認します。自分の数字で試したい場合は 複利積立シミュレーションツール や 手取り計算ツール で確かめられます。
そもそも「実質金利」とは何か
実質金利とは、銀行の窓口や通帳に表示される名目金利(例:年0.02%)から、物価の上昇率(インフレ率)を差し引いた、お金の「実際の購買力」基準での増減率です。名目金利だけを見て「増えている」と喜んでも、その間に野菜や光熱費が値上がりしていれば、同じ金額で買えるモノは減っています。
実質金利は、マクロ経済学のフィッシャー方程式に由来します。精密な式は次のとおりです。
実質金利 = (1 + 名目金利) ÷ (1 + インフレ率) − 1
ただし、金利もインフレ率も数%程度と小さいため、実務・概算では引き算の近似でほとんど問題ありません。
実質金利 ≒ 名目金利 − インフレ率
例えば名目金利0.02%・インフレ率2%なら、精密計算でも (1.0002÷1.02)−1 ≒ −1.9608%、近似の −1.98%とほぼ一致します。以降は直感的な近似式で読み進めます(複利の計算方法や 72の法則 も併せてどうぞ)。
ステップ1:名目金利で預金はいくら増えるか
まず「表示どおり」の増え方を確認します。100万円を年0.02%で1年預けた場合、
利息 = 1,000,000円 × 0.02% = 1,000,000 × 0.0002 = 200円
1年でたった200円。これでは物価が少しでも上がれば、すぐに目減りします。
ステップ2:インフレで「買えるモノ」はいくら減るか
ここが本質です。インフレ率2%とは、「同じモノの値段が1年で2%上がる」ということ。つまり100万円分の買い物ができるはずが、1年後には同じモノに102万円必要になり、100万円の価値は「2万円分の物」を失ったことになります。
購買力の目減り = 1,000,000円 × 2% = 20,000円分
ステップ3:実質の増減は「+200円 − 2万円 = −1万9,800円」
利息で増えた200円から、物価上昇で失った2万円分の購買力を引くと、
実質の増減 = +200円 − 20,000円 = −19,800円
| 項目 | 金額 | 意味 |
|---|---|---|
| 預金の利息(名目) | +200円 | 通帳にプラスされる額 |
| インフレによる購買力減 | ▲20,000円 | 同じモノが買えなくなる分 |
| 実質の増減 | ▲19,800円 | 実際の「豊かさ」の変化 |
つまり「お金の枚数」は200円増えるが、「お金で買える幸せ」は約2万円分減るのが、低金利・インフレ下の預金の正体です。
具体数値例:金利とインフレ率を変えてみる
預金金利(普通預金〜定期)とインフレ率の組み合わせで、実質金利がどう変わるかを表にします。いずれも「実質金利 ≒ 名目 − インフレ」の近似です。
| 名目金利 \ インフレ率 | 1% | 2% | 3% |
|---|---|---|---|
| 0.02%(普通預金並み) | ▲0.98% | ▲1.98% | ▲2.98% |
| 0.10%(定期預金並み) | ▲0.90% | ▲1.90% | ▲2.90% |
金利を少し上げて0.10%の定期にしても、インフレ2%のもとでは実質金利は −1.9%と、ほとんど変わりません。「少し金利の高い預金に替える」だけでは、インフレには追いつけないのが現実です。
ステップ4:複数年の複利で、目減りは加速する
1年なら「約2%減」ですが、年数を重ねると複利の効果で目減りが加速します。実質金利 −1.98%/年なら、n年後の100万円の実質価値は次の式で求まります。
n年後の実質価値 = 1,000,000円 × (1 − 0.0198)n
- 10年後:1,000,000 × (0.9802)10 ≒ 1,000,000 × 0.819 ≒ 約819,000円(約18%目減り)
- 20年後:1,000,000 × (0.9802)20 ≒ 1,000,000 × 0.670 ≒ 約670,000円(約33%目減り)
「10年で18%目減り」は、「元本が18万円飛ぶ」のと同じインパクトです。長期で預金を寝かせるほど、インフレの痛手は大きくなります(72の法則 を使えば、実質金利−2%なら「36年で実質価値が半分になる」とざっくり読めます)。
ステップ5:利子には約20.315%の税金がかかる
さらに厳しい現実があります。預金の利息には、所得税(復興特別所得税含む)と住民税を合わせて約20.315%が課されます(預金の利子にかかる税金の記事参照)。先ほどの利息200円は、税引き後には
税引後利息 = 200円 × (1 − 0.20315) ≒ 160円
となり、実質の目減りは「+160円 − 20,000円 = ▲19,840円」と、さらにわずかに悪化します。金利が低いほど、この税金の比重が相対的に大きく効きます。
住宅ローンと対比すると見えてくる「非対称」
面白いのは、借金(住宅ローン)の実質金利はマイナスになりやすいのに対し、預金の実質金利はマイナスになりやすいという非対称です。
- 借入の側:金利1%・インフレ2%なら、実質金利は −1%。返済総額の「名目」は変わらないものの、支払う円の価値が目減りするため、実質的には借り得に近づく(住宅ローンの実質金利マイナスの記事で計算)。
- 預金の側:同じインフレ2%でも、金利0.02%では実質 −1.98%。持っているお金の価値が目減りする。
同じインフレ環境でも、「借りる人」と「預金する人」で実質の損得が逆になる——これがインフレ下の家計の非対称です。もちろん借入には元本返済の義務があり、単純に「借りるほうが得」と言うつもりはありません。言いたいのは「預金だけでインフレに勝とうとすると、構造的に不利になる」という点です。
よくある誤解4つ
- 「銀行預金は安全だから、増える(損しない)」と思い込む:預金は「元本保証・流動性」という意味では安全ですが、インフレ下では購買力が静かに目減りします。「数字が減らない」≠「豊かさが減らない」です。
- 「金利がつくから得」と過信する:名目金利がインフレ率を下回る(ほとんどの預金でそう)限り、実質金利はマイナスです。利息200円の喜びより、2万円分の物価上昇のほうがずっと大きいことを忘れないでください。
- 「インフレ率は正確にわかる」と思い込む:過去のインフレ率(消費者物価指数の前年比)はわかりますが、将来のインフレ率は予測であり不確実です。だからこそ、「全部預金」にも「全部運用」にも偏らないバランスが合理的です。
- 「預金を持つのが悪い」と極端に考える:生活予備費(3〜6ヶ月分の支出)や、すぐ使う資金は預金に置くのが正解です。問題は「長期で増やしたい資金まで、低金利預金に寝かせたままにすること」です。
自分の数字で確かめる・関連記事
実質金利の考え方を、ご自身の預金額・金利・想定インフレ率で試すなら、複利積立シミュレーションツール で「実質リターン(金利−インフレ)」をマイナス入力して将来額の目減りを可視化できます。手取り計算ツール で、毎月の収入からいくらを預金・運用に回せるかの目安も出せます。仕組みのつながりで読むなら、複利の基本は 複利の計算方法、元本が2倍になる年数は 72の法則の記事、預金の利子にかかる税金の根拠は 預金の利子にかかる税金、借入側の実質金利は 住宅ローンの実質金利マイナスの記事、インフレと老後資金の関係は 老後資金2000万円問題の記事 が参考になります。いずれもブラウザ内で計算し、入力した金額はどこにも送信されません。
注意事項
本記事の数値は実質金利の近似式(名目金利 − インフレ率)および複利の基本算式に基づく概算です。実際のインフレ率は「消費者物価指数(CPI)の前年比」などで測りますが、食料品・エネルギーの価格変動(ベース効果)によって一時的にぶれ、家計が実感する物価上昇(実質負担)はCPIとは異なる場合があります。また将来の金利・インフレ率は不確実であり、本記事の「2%」「0.02%」はあくまで典型的な目安です。預金の利子にかかる税金(約20.315%)の正確な計算や、個別の資産配分・運用方針については、各金融機関の説明や、必要に応じてファイナンシャル・プランナー等の専門家にご相談ください。本記事は情報提供を目的とし、個別の投資助言に代わるものではありません。
よくある質問
実質金利って何ですか?
銀行の窓口に表示される「名目金利」から、物価の上昇率(インフレ率)を引いた、お金の購買力基準での実際の増減率です。近似式は「実質金利 ≒ 名目金利 − インフレ率」で、精密には「(1+名目金利)÷(1+インフレ率)−1」となります。金利もインフレ率も数%程度と小さいため、日常の目安としては引き算の近似でほとんど問題ありません。
銀行預金100万円は1年でいくら目減りしますか?
金利0.02%・インフレ率2%の場合、利息は200円増える一方、物価上昇で同じモノが2万円高くなるため、実質の購買力は約1万9,800円分減ります。名目(お金の枚数)は増えていても、実質(買えるモノの量)は減っているのが低金利・インフレ下の預金の正体です。
預金の利子には税金がかかりますか?
はい、預金の利息には所得税(復興特別所得税含む)と住民税を合わせて約20.315%が課されます。先ほどの利息200円は税引き後には約160円になり、実質の目減りがさらにわずかに広がります。金利が低いほど、この税金の比重が相対的に大きく効きます。
インフレ率はどうやって知るのですか?
総務省が公表する消費者物価指数(CPI)の前年比が、もっとも一般的な目安です。ただし将来のインフレ率は予測であり不確実で、食料品やエネルギーの価格変動で一時的にぶれるため、あくまで目安として捉えるのが妥当です。
預金を持つのが悪いということですか?
そうではありません。生活予備費(3〜6ヶ月分の支出)やすぐ使う資金は預金に置くのが正解です。問題は「長期で増やしたい資金まで、低金利預金に寝かせたままにしてインフレに負ける」構造です。預金と運用を目的別に分けるのが合理的です。