株の損益通算と繰越控除はいくら得か——複数口座で121,890円が戻る計算と「NISAの損失は通算できない」落とし穴を20.315%で1円単位に検証

2026-08-29 | 損益通算 繰越控除 確定申告 NISA 特定口座 配当 税金 投資 計算 家計

便利箱編集部 | 編集方針・情報の確認

「A証券では利益が出たのに、B証券では損が出た。税金は取られっぱなしなの?」「今年は大きく負けた。この損は来年以降に使えるの?」——株式や投資信託の売買を複数の口座でやっていると、必ずぶつかる疑問です。ところが「損益通算」で検索すると、制度名の説明だけで終わっていて、「実際に何円戻ってくるのか」「NISAの損はどう扱われるのか」を数字で示したページはほとんどありません。

この記事では、上場株式・投資信託の譲渡損益にかかる20.315%という税率の内訳から出発し、①複数口座の損益通算で戻る税額、②配当との通算、③損失が利益を超えたときの繰越控除(3年)の使い切り方、④NISA口座の損失は通算も繰越もできないという最大の落とし穴、を1円単位で計算します。自分の数字で試せる損益通算シミュレーターも記事内に用意しました(計算はすべてブラウザ内で完結し、入力内容が外部に送信されることはありません)。

📌 結論ファースト:上場株式・投資信託の譲渡益にかかる税率は20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)です。A証券で+80万円、B証券で−60万円だった場合、A証券では源泉徴収で162,520円が引かれていますが、確定申告で損益通算すれば課税対象は差額の20万円になり税額は40,630円——差額の121,890円が還付されます。損失が利益を上回った年は、使い切れなかった損失を翌年以後3年間繰り越せます(繰越控除)。ただしNISA口座で出た損失は、損益通算も繰越控除も一切できません。同じ120万円の損失が、特定口座なら最大243,780円の節税に化けるのに、NISAでは0円——非課税制度の裏側にある、知られていない非対称性です。

ステップ1:まず税率20.315%の内訳を押さえる

上場株式・株式投資信託の譲渡益および配当は、給与などとは分けて計算する申告分離課税で、税率は一律です。

税率 20.315% = 所得税 15% + 復興特別所得税 0.315%(=15%×2.1%)+ 住民税 5%

この「一律」という性質が重要です。給与の所得税は累進(5%〜45%)ですが、譲渡益は金額にかかわらず20.315%。だから「利益100万円なら税203,150円」「利益10万円なら20,315円」と、比例計算で正確に出せます。

年間の譲渡益税額(20.315%)手取り
100,000円20,315円79,685円
500,000円101,575円398,425円
800,000円162,520円637,480円
1,200,000円243,780円956,220円
3,000,000円609,450円2,390,550円

「源泉徴収あり」の特定口座を選んでいる場合、証券会社が売却のたびにこの20.315%を天引きして納税を代行します。だから確定申告なしでも課税は完了しています——その口座の中だけで見れば。問題は「別の口座の損」が、その計算に入っていないことです。

ステップ2:複数口座の損益通算——121,890円が戻る計算

証券会社をまたいだ損益は、証券会社側では自動的に合算されません。各社は自社の口座の中だけで源泉徴収するため、片方が黒字・片方が赤字だと「黒字分の税だけ取られた」状態になります。これを是正するのが損益通算で、方法は確定申告だけです。

課税対象 = 全口座の譲渡益の合計 − 全口座の譲渡損の合計
還付額 = すでに源泉徴収された税額 − 通算後の正しい税額

具体例で追います。A証券で+800,000円、B証券で−600,000円だった年です。

項目通算しない(申告なし)通算する(確定申告)
A証券の譲渡益+800,000円+800,000円
B証券の譲渡損−600,000円(無視される)−600,000円(差し引く)
課税対象800,000円200,000円
税額(20.315%)162,520円40,630円
差額(還付される額)121,890円

計算の確認:

通算後の税額 = (800,000 − 600,000) × 0.20315 = 200,000 × 0.20315 = 40,630円
還付額 = 162,520 − 40,630 = 121,890円
⚠ 申告しなければ1円も戻りません。「源泉徴収あり」の口座は「申告しなくてよい」だけで、「申告すると損」なわけではありません。他社に損がある年は、申告する方が確実に有利です(申告するかどうかは口座単位で選べます)。

ステップ3:配当も通算できる——配当だけの年でも取り戻せる

損益通算の相手は「譲渡益」だけではありません。上場株式の配当金・投資信託の分配金(申告分離課税を選択したもの)とも通算できます。これは配当メインの運用をしている人ほど効きます。

例:年間の配当が120,000円(源泉徴収で24,378円が引かれている)、一方で株の売却損が300,000円あった年。

項目金額
配当(受取総額)120,000円
源泉徴収された税額24,378円(=120,000×20.315%)
譲渡損−300,000円
通算後の課税対象0円(配当120,000 − 損300,000 < 0)
還付額24,378円(源泉徴収の全額)
翌年以後に繰り越せる損失180,000円(300,000 − 120,000)
📌 配当を通算に使うには、確定申告で申告分離課税を選ぶ必要があります。配当を総合課税(配当控除を使う方式)で申告すると、譲渡損との通算はできません。どちらが有利かは所得水準で変わるため、配当控除の総合課税と申告分離課税の比較記事を参照してください。

ステップ4:損失が利益を超えたら「繰越控除」で3年使える

その年の損失が利益を上回ると、通算しきれない損失が残ります。これは翌年以後3年間にわたって繰り越し、将来の利益・配当から差し引けます(上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除)。

繰越できる損失 = その年の損失 − その年に通算できた利益・配当
使える期間 = 翌年以後3年間(古い損失から順に充当)

具体例:ある年に譲渡益500,000円、譲渡損1,200,000円だったケースの4年間を追います。

年その年の利益相殺に使った損失その年の節税額翌年へ繰越す損失
1年目(損失発生年)500,000円500,000円101,575円700,000円
2年目300,000円300,000円60,945円400,000円
3年目300,000円300,000円60,945円100,000円
4年目200,000円100,000円20,315円0円(使い切り)
4年間の節税額 合計243,780円

合計は 1,200,000円 × 20.315% = 243,780円 と一致します。つまり損失は「その額×20.315%」の税金クーポンであり、3年以内に利益を出せれば額面どおり使い切れる、というのが繰越控除の本質です。

⚠ 繰越控除は「毎年連続して確定申告する」ことが条件です。損失を出した年に申告して繰越を確定させ、その後も利益がゼロの年でも申告を継続しなければ、繰越は途切れて消えます。「今年は取引がないから申告不要」と1年でも抜けると、残っていた損失が失効します。ここが実務で最も多い失敗です。

ステップ5:最大の落とし穴——NISA口座の損失は「無かったこと」になる

ここが本記事で一番伝えたい点です。NISA口座(つみたて投資枠・成長投資枠)で生じた損失は、損益通算も繰越控除も一切できません。

NISAは「利益が非課税」の制度ですが、税制上は損益がそもそも無いものとして扱われる口座です。利益が出ても課税されない代わりに、損が出ても税務上の損失として認められません。

120万円の損失が出た口座損益通算繰越控除損失の「税金としての価値」
特定口座・一般口座(課税口座)できる3年できる最大243,780円
NISA口座できないできない0円

同じ120万円の含み損を確定させても、課税口座なら将来の税金を最大243,780円減らせるのに、NISAでは何の税務メリットも生みません。

📌 実務的な含意:値上がり期待が高い(=利益が大きくなりそうな)資産をNISAへ、損切りの可能性を織り込む資産は課税口座へ——というのが税制から素直に導かれる配置です。「NISAは万能」ではなく、NISAは利益にだけ効く片側の制度と理解しておくと判断を誤りません。新NISAの非課税メリットを計算した記事もあわせて確認してください。

損益通算・繰越控除シミュレーター

各口座の年間損益と配当を入れると、通算後の課税対象・税額・還付額・繰越せる損失を計算します。すべてブラウザ内で計算され、入力内容はどこにも送信されません。

よくある勘違いと注意点

関連ツール・記事

注意事項

本記事の数値は、上場株式等に係る申告分離課税(税率20.315%=所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)を前提としたモデル計算です。実際の還付額は、①各口座で実際に源泉徴収された税額(売却時点ごとの計算・口座内調整の有無)、②配当を申告分離課税で申告するか総合課税で申告するか、③繰越損失の発生年と充当順序、④取得費・手数料の計算方法、などによって本記事の数値と異なります。譲渡益を確定申告すると合計所得金額が増加し、国民健康保険料・後期高齢者医療保険料、各種控除や給付の判定に影響する場合があります。損失の繰越控除は、損失が生じた年に確定申告を行い、その後も連続して確定申告を継続することが要件です。FX・先物取引・暗号資産の損益は本記事の通算対象とは別区分です。制度は税制改正で変更される可能性があります。正確な税額・申告方法は国税庁の資料またはお住まいの税務署・税理士にご確認ください。本記事は情報提供を目的とし、個別の投資判断・税務判断に代わるものではありません。計算はすべてブラウザ内で行われ、入力した情報が外部に送信されることはありません。

よくある質問

株の損益通算とは何ですか?いくら戻りますか?

複数の口座(証券会社)の譲渡益と譲渡損を合算して、税金を計算し直す手続きです。証券会社は自社の口座内でしか源泉徴収を計算しないため、A証券で+80万円・B証券で−60万円だった場合、A証券では162,520円(80万円×20.315%)が天引きされたままになります。確定申告で通算すると課税対象は差額の20万円になり、正しい税額は40,630円。差額の121,890円が還付されます。申告しなければ1円も戻りません。

損益通算はどうやってするのですか?証券会社が自動でやってくれますか?

同じ証券会社の同一特定口座内であれば年間で自動的に通算・調整されますが、証券会社をまたぐ通算は自動では行われません。確定申告(上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書+特定口座年間取引報告書)で行う必要があります。

損失が利益より大きかった場合はどうなりますか?

使い切れなかった損失は、翌年以後3年間にわたって繰り越し、将来の譲渡益や配当と相殺できます(繰越控除)。例えば120万円の損失は、翌年以後の利益と相殺していけば最終的に120万円×20.315%=243,780円の節税価値があります。ただし損失が生じた年に確定申告して繰越を確定させ、その後も利益がない年でも連続して申告を続けることが条件です。1年でも申告が抜けると繰越は失効します。

NISA口座の損失は損益通算できますか?

できません。NISA口座(つみたて投資枠・成長投資枠)の損益は税務上「無いもの」として扱われるため、損益通算も繰越控除も一切認められていません。同じ120万円の損失でも、特定口座なら最大243,780円の節税価値があるのに、NISAでは0円です。利益が非課税である代わりに、損失も税務上の価値を持たない片側の制度だと理解しておく必要があります。

配当金も損失と通算できますか?

できます。上場株式の配当金・投資信託の分配金を確定申告で「申告分離課税」として申告すれば、譲渡損と通算できます。年間配当120,000円(源泉徴収24,378円)に対して譲渡損300,000円があれば、課税対象は0円になり源泉徴収された24,378円が全額還付され、残る損失180,000円は翌年以後に繰り越せます。ただし配当を「総合課税」(配当控除)で申告した場合は譲渡損と通算できません。

確定申告して損益通算すると、デメリットはありますか?

譲渡益を申告すると合計所得金額が増えるため、国民健康保険料・後期高齢者医療保険料の算定、配偶者控除や扶養の判定、住民税非課税の判定に影響する可能性があります。申告するかどうかは口座単位で選べるので、還付額と保険料等の増加を比較して判断します。

FXや暗号資産の損失は株の利益と通算できますか?

できません。上場株式等(株式・投資信託・ETF・REIT・公社債等)は同じグループ内で通算できますが、FX・先物・オプションは「先物取引に係る雑所得等」という別区分で、株式等との通算はできません(先物同士なら通算・3年繰越が可能)。暗号資産の損益は総合課税の雑所得で、株式等とも先物とも通算できません。

損益通算のために年末に損切りするのは有効ですか?

課税口座で含み損がある銘柄を年内に売却して損を確定させれば、その年の譲渡益と通算して税額を減らせます(例:利益80万円に対し60万円の損切りで121,890円の節税)。ただし同じ銘柄を買い戻す場合は取得価額が下がるため、将来の譲渡益が増えて課税が先送りされるだけになる点、売買手数料がかかる点、NISA口座では一切効果がない点に注意が必要です。

[ 広告枠 / Google AdSense ]

‹ ブログ一覧へ