iDeCo一時金と退職金の受取順序|2026年から5年ルールは10年ルールへ(退職金2000万+iDeCo600万の税額は0円・446,122円・506,752円・689,062円)
「iDeCoの一時金は退職金より先に、5年空けて受け取れば税金ゼロ」——ネット上に大量に残っているこの説明は、2026年1月1日以後に受け取る一時金には通用しません。2025年度の税制改正で、iDeCo(確定拠出年金)の一時金を先に受け取ったあと退職金の退職所得控除がフルに復活するまでの期間が、5年から10年へ延長されたためです。
本記事は勤続38年で退職金2,000万円・iDeCo加入20年で一時金600万円という会社員の典型モデルで、受取順序と間隔ごとの税額を1円単位で計算します。
- 同じ年に両方受け取る(=446,122円)
- iDeCoを先に受け取り、翌年〜10年目に退職金(=689,062円/いちばん損)
- iDeCoを先に受け取り、11年目以降に退職金(=0円)
- 退職金を先に受け取り、その後19年以内にiDeCo(=506,752円/19年ルール)
誰が検索する記事か
この記事は次のような人のために書いています。
- 50代でiDeCoの受取方法を決めようとしている会社員。iDeCoは60歳〜75歳の間で受取開始時期を自分で選べるため、退職金との順番と間隔を自分で設計できる(=間違えられる)。
- 60歳定年・65歳まで再雇用という勤務先で、退職金とiDeCoの間隔が5年しか取れない人。改正後はこの5年が意味を持ちません。
- ネットの「5年ルール」を読んで安心していた人。2026年1月1日以後の受け取りは10年で判定されます。
なおiDeCoの受取方法は「一時金」「年金」「一時金+年金の併用」から選べます。本記事は一時金(退職所得扱い)のケースです。年金形式で受け取ると雑所得(公的年金等控除の対象)となり、退職所得控除ではなく公的年金等控除で計算するまったく別の話になります。
前提:退職所得の税金はこう決まる
退職金とiDeCo一時金は、どちらも退職所得として課税されます。給与や年金と合算されず単独で計算される(分離課税)ため、本来は非常に軽い所得です。
課税退職所得金額 = (退職金等の収入 − 退職所得控除額) × 1/2
この課税退職所得金額に所得税の超過累進税率(+復興特別所得税2.1%)と住民税10%をかけます。1/2されるうえに大きな控除があるので、控除内に収まれば税金はゼロです。
退職所得控除額は勤続年数(iDeCoは加入年数)で決まります。
20年以下:40万円 × 年数(最低80万円)
20年超:800万円 + 70万円 × (年数 − 20年)
| 年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 10年 | 4,000,000円 |
| 20年 | 8,000,000円(iDeCo加入20年のモデル) |
| 30年 | 15,000,000円 |
| 38年 | 20,600,000円(勤続38年のモデル) |
単純に見れば「20,600,000円+8,000,000円=28,600,000円まで無税」と思えます。しかし控除を二重に使わせないための調整ルールがあり、これが受取順序で税額が変わる理由です。
核心:2つの調整ルール(10年ルールと19年ルール)
退職金とiDeCo一時金を近い時期に受け取ると、勤務期間と加入期間が重なっている分だけ、後から受け取る側の退職所得控除が削られます。削られ方はどちらを先に受け取ったかで非対称です。
| 先に受け取るもの | 後に受け取るもの | 判定期間 | 通称 |
|---|---|---|---|
| iDeCo一時金 | 退職金 | 10年(2026年1月1日以後の受給。それ以前は5年) | 10年ルール(旧5年ルール) |
| 退職金 | iDeCo一時金 | 前年以前19年 | 19年ルール |
読み方はこうです。
- iDeCoを先に受け取った場合:その後10年以内に退職金を受け取ると、退職金側の退職所得控除からiDeCoで既に使った期間分が差し引かれます。11年目以降なら退職金側は満額の控除を使えます。
- 退職金を先に受け取った場合:その退職金の年から数えて19年以内にiDeCo一時金を受け取ると、iDeCo側の控除から重複期間分が差し引かれます。20年以上空けないと満額にならないため、60歳〜75歳という受給期間の制約上、実務ではほぼ必ず調整されると考えてよいです。
もう一つ重要なのが同じ年に両方受け取った場合です。この場合は2つを合算して1回の退職所得として計算し、退職所得控除は勤続期間と加入期間を通算した“長い方”の年数で計算します。モデルでは勤続38年が加入20年を完全に含むので、控除は20,600,000円(38年分)です。控除は1回分しか使えませんが、削られ方が最小になるため、実は有力な選択肢になります。
4パターンを1円単位で計算する
モデル:退職金2,000万円(勤続38年)/iDeCo一時金600万円(加入20年)。所得税は超過累進+復興特別所得税2.1%、住民税は一律10%(課税退職所得金額に対して)。他の退職所得はないものとします。
A:同じ年に両方受け取る → 446,122円
収入合計 = 2,000万円 + 600万円 = 26,000,000円
退職所得控除 = 20,600,000円(38年分)
課税退職所得 = (26,000,000 − 20,600,000) × 1/2 = 2,700,000円
所得税 = (2,700,000 × 10% − 97,500) × 1.021 = 176,122円
住民税 = 2,700,000 × 10% = 270,000円
税額合計 446,122円
B:iDeCoを先に受け取り、10年以内に退職金 → 689,062円(最悪)
iDeCo単体は600万円 ≦ 控除8,000,000円なので税金ゼロ。しかし翌年〜10年目に受け取る退職金は、控除から重複する20年分(8,000,000円)を差し引かれます。
退職金側の控除 = 20,600,000 − 8,000,000 = 12,600,000円
課税退職所得 = (20,000,000 − 12,600,000) × 1/2 = 3,700,000円
所得税 = (3,700,000 × 20% − 427,500) × 1.021 = 319,062円
住民税 = 370,000円
税額合計 689,062円(Aより242,940円多い)
ここが本記事でいちばん伝えたい点です。「先に受け取れば有利」は間隔が10年を超えない限り成立しません。むしろ同じ年にまとめる方が242,940円安くなります。旧ルール(5年)を前提に「60歳でiDeCo・65歳で退職金」と設計していた人は、2026年以降まさにこのBに着地します。
C:iDeCoを先に受け取り、11年目以降に退職金 → 0円
10年ルールをクリアするため、退職金側は満額20,600,000円の控除を使えます。2,000万円 < 20,600,000円なので課税退職所得は0円、iDeCo側も控除内。税額合計0円です。
理論上のベストですが、iDeCoは75歳までに受給を開始しなければならないため、たとえば60歳でiDeCoを受け取ったなら退職金は71歳以降。会社員でこの間隔を作れる人はごく少数です(60歳でiDeCo、70歳超まで在職し退職金を後払いにできる会社など)。
D:退職金を先に受け取り、19年以内にiDeCo → 506,752円
退職金2,000万円は控除20,600,000円の枠内でゼロ。しかしiDeCo側は重複する20年分を差し引かれ、控除が0円になります(8,000,000 − 8,000,000)。
課税退職所得 = (6,000,000 − 0) × 1/2 = 3,000,000円
所得税 = (3,000,000 × 10% − 97,500) × 1.021 = 206,752円
住民税 = 300,000円
税額合計 506,752円(Aより60,630円多い)
| パターン | 順序と間隔 | 税額合計 | Aとの差 |
|---|---|---|---|
| C | iDeCo → 11年目以降に退職金 | 0円 | −446,122円 |
| A | 同じ年に両方 | 446,122円 | ±0円 |
| D | 退職金 → 19年以内にiDeCo | 506,752円 | +60,630円 |
| B | iDeCo → 10年以内に退職金 | 689,062円 | +242,940円 |
順位はC < A < D < B。10年空けられないなら同じ年にまとめる(A)が現実的な最適解、という結論になります。
受取順序シミュレーター(4パターン同時計算)
退職金・iDeCo一時金の金額と年数を入れると、4つの受取パターンの税額を同時に計算します。入力値はブラウザ内だけで処理され、外部に送信されません。
デフォルト値(退職金2,000万円・勤続38年・iDeCo600万円・加入20年)では、C=0円、A=446,122円、D=506,752円、B=689,062円と本文の計算に一致します。金額や年数を変えると順位が入れ替わることもあるので、自分の数字で確認してください。
順位が入れ替わる条件
「同じ年にまとめる(A)」が常に次善手というわけではありません。順位は控除の枠に対して収入がどれだけ大きいかで変わります。
- 退職金が控除枠に対して小さいとき(例:退職金800万円・勤続38年)は、Aでも合算後1,400万円が控除20,600,000円に収まり0円。この場合はどのパターンでも税額ゼロで、順序を悩む必要はありません。まず退職金+iDeCo ≦ 長い方の年数の控除額かどうかを確認してください。
- iDeCo加入年数が短いとき(例:加入10年=控除4,000,000円)は、Bで削られる額も4,000,000円にとどまるため、BとAの差は縮まります。
- iDeCo加入年数が勤続年数より長いとき(自営業から会社員になった等)は、同年受取の控除がiDeCo加入年数で計算されるため、Aの控除枠が大きくなり、Aがさらに有利になります。
- 退職金が控除枠を大きく超えるときは、課税退職所得が累進税率の上の段に乗るため、控除を削られるBの不利が急拡大します。上のツールで実額を確認してください。
見落としやすい注意点
- 「退職所得の受給に関する申告書」を必ず出す。提出しないと退職所得控除が適用されず、収入金額に一律20.42%の源泉徴収がかかります(確定申告で還付は可能ですが、資金拘束されます)。iDeCoの一時金でも同じ書類が必要で、過去の退職金の受給歴を記入する欄があります。ここに書いた内容が上の調整計算の根拠になるため、正確に書いてください。
- 年数の端数は切り上げ。勤続20年1か月は21年として控除を計算します(1年未満の端数は1年に切り上げ)。逆に言うと、退職日が1か月違うだけで控除が70万円増えることがあります。
- 企業型DCや小規模企業共済も同じ土俵。調整の対象は「退職手当等」全般です。企業型DCの一時金、確定給付企業年金の一時金、小規模企業共済の共済金(一括)も含めて判定されるため、複数ある人は全部を並べて考える必要があります。
- 住民税は分離課税で翌年課税ではない。退職所得の住民税は例外的にその年に特別徴収されます。翌年の住民税が跳ね上がるわけではない点は、給与所得や譲渡所得と違います。
- iDeCoの受取方法は「併用」もある。一時金部分を控除枠ぴったりに抑え、残りを年金で受け取れば、退職所得側は無税のまま公的年金等控除も使えます。ただし公的年金等控除は老齢年金と合算枠なので、年金受給が始まると雑所得が増えて国民健康保険料・介護保険料も上がります。税だけで判断しないでください。
- 社会保険料への影響は退職所得にはない。退職所得は国民健康保険料・後期高齢者医療保険料の算定基礎に含まれません(雑所得で受け取ると含まれます)。一時金を選ぶ隠れたメリットです。
関連ツール・関連記事
- 退職金の税金の計算:退職所得控除と1/2課税の基本をさらに詳しく。
- iDeCoの積立で資産はいくらになるか:受け取る前段階(拠出と運用)の計算。
- iDeCoとつみたてNISAの空白:出口の課税を含めた使い分け。
- 年金の繰下げ・繰上げの分岐点:受給開始年齢の設計と合わせて考える。
- 退職後の国民健康保険と任意継続:退職前後の保険料の実務。
- 老後資金2,000万円の現算:受取後の取り崩し計画。
いずれもブラウザ内で計算し、入力した金額はどこにも送信されません。
注意事項
本記事の数値は、退職金2,000万円(勤続38年)・iDeCo一時金600万円(加入20年)・他の退職所得なし・所得税は超過累進税率+復興特別所得税2.1%・住民税は課税退職所得金額の10%・課税退職所得金額は1,000円未満切捨てという前提での概算計算です。役員等としての勤続年数が5年以下の場合は1/2課税が適用されないなど、個別の特例があります。勤続年数・加入年数の重複期間の算定方法、および「退職所得の受給に関する申告書」の記載に基づく控除額の調整は、実際には月単位で判定されるため、本記事の年単位モデルとは差が出ることがあります。iDeCo一時金を先に受け取った場合の判定期間を5年から10年とする改正は2026年1月1日以後に支払われる退職手当等に適用されますが、施行内容・経過措置の詳細は国税庁および厚生労働省の公表資料で必ずご確認ください。制度は改正されることがあります。本記事は情報提供を目的とし、個別の税務判断に代わるものではありません。実際の受取設計は、勤務先の退職金規程・運営管理機関の受取可能パターン・他の所得の状況を踏まえて、税理士等にご相談ください。計算はすべてブラウザ内で行われ、入力した情報が外部に送信されることはありません。
よくある質問
iDeCoの一時金は退職金より先に受け取ったほうが得ですか?
「10年以上空けられるなら得、空けられないなら損」です。2026年1月1日以後に受け取る退職手当等では、iDeCo一時金を先に受け取ったあと退職所得控除がフルに復活するまでの期間が5年から10年に延長されました。退職金2,000万円(勤続38年)・iDeCo600万円(加入20年)のモデルでは、iDeCo→11年目以降なら税額0円ですが、iDeCo→10年以内だと退職金側の控除が20,600,000円から12,600,000円に削られ、税額は689,062円になります。同じ年にまとめて受け取れば446,122円なので、10年空けられないなら同年受取のほうが242,940円安いという逆転が起きます。
5年ルールが10年ルールに変わったのはいつからですか?
2025年度の税制改正によるもので、2026年1月1日以後に支払われる退職手当等について、iDeCo一時金を先に受け取った場合の判定期間が5年から10年になりました。ネット上の記事や書籍には「5年空ければよい」という旧ルール前提の解説が大量に残っているため、2026年以降に受け取る人は必ず期間の前提を確認してください。とくに「60歳でiDeCoを一時金受取、65歳の再雇用終了時に退職金」という広く紹介されてきた設計は、改正後は控除の削減対象になります。
退職金を先に受け取った場合の19年ルールとは何ですか?
退職金を受け取った年から数えて前年以前19年以内にiDeCo一時金を受け取ると、iDeCo側の退職所得控除から勤務期間と加入期間の重複分が差し引かれる、という調整です。モデルではiDeCo側の控除8,000,000円が全額削られて0円になり、課税退職所得は(600万円−0)×1/2=3,000,000円、税額は506,752円になります。20年以上空ければ満額の控除が使えますが、iDeCoは75歳までに受給を開始しなければならないため、実務上は退職金を先に受け取ると必ず調整されると考えたほうが安全です。
同じ年に退職金とiDeCo一時金を受け取ると、控除は2回使えますか?
使えません。同じ年に受け取った退職手当等は合算して1回の退職所得として計算し、退職所得控除は勤続期間と加入期間を通算した長い方の年数で計算します。モデルでは勤続38年が加入20年を含むため控除は20,600,000円で、課税退職所得は(2,600万円−20,600,000円)×1/2=2,700,000円、税額は446,122円です。控除は1回分ですが削られ方が最小なので、10年の間隔を作れない人にとっては現実的な最適解になります。
退職金とiDeCoの合計が控除額に収まるなら、順番は気にしなくていいですか?
はい、その場合はどのパターンでも税額はゼロになるので、順番を悩む必要はありません。まず「退職金+iDeCo一時金 ≦ 長い方の年数で計算した退職所得控除額」を確認してください。たとえば退職金800万円・勤続38年・iDeCo600万円なら合計1,400万円が控除20,600,000円に収まるため、同年受取でも税額0円です。順序の最適化が意味を持つのは、合計額が控除枠を超える人だけです。
「退職所得の受給に関する申告書」を出さないとどうなりますか?
退職所得控除が適用されず、収入金額に対して一律20.42%が源泉徴収されます。モデルの退職金2,000万円なら約408万円が引かれます。確定申告をすれば正しい税額との差額は還付されますが、それまで資金が拘束されます。この申告書にはこれまでに受け取った退職手当等の受給歴を記入する欄があり、その記載内容が10年ルール・19年ルールの調整計算の根拠になります。過去の受給を書き漏らすと後から修正が必要になるため、企業型DCや小規模企業共済の一括受取も含めて正確に記入してください。
企業型DCや小規模企業共済も同じ調整の対象になりますか?
なります。調整の対象は「退職手当等」全般で、企業型確定拠出年金の一時金、確定給付企業年金の一時金、小規模企業共済の共済金(一括受取)も含めて判定されます。複数の制度から一時金を受け取る予定がある人は、退職金だけでなくすべてを並べて、どの年にどれを受け取るかを設計する必要があります。受取可能なパターンは運営管理機関や勤務先の規程によって制限されることもあるため、制度上できる選択肢を先に確認してから税額を比較してください。
一時金と年金の併用にすると税金はどうなりますか?
一時金部分は退職所得(退職所得控除の対象)、年金部分は雑所得(公的年金等控除の対象)として別々に計算されます。一時金を退職所得控除の枠ぴったりに抑え、残りを年金で受け取れば退職所得側は無税にできます。ただし公的年金等控除は老齢年金と合算する枠なので、年金受給開始後は雑所得が増え、所得税・住民税だけでなく国民健康保険料や後期高齢者医療保険料、介護保険料も上がります。一時金(退職所得)はこれらの保険料の算定基礎に含まれないため、社会保険料まで含めると一時金が有利になるケースがあります。