年金の繰下げ受給とは? 増額率の計算式と「何歳まで生きれば得か」の分岐点を計算
「年金、いつからもらい始めるべき? 65歳でそのまま受け取るか、あとで繰り下げて増やすか」——定年後に第二の人生を考えるとき、誰もが一度は迷う選択です。この記事では、年金の繰下げ受給(支給開始を遅らせる)で月額がいくら増えるかの計算式と、「総受給額で得か損か」が逆転する分岐年齢(約82歳)を、具体数値で算出します。結論から言うと、長生きする見込みがあれば繰下げが有利ですが、そのカラクリは単純な計算で確かめられます。
結論:繰下げると最大42%増額、でも「得」になるのは約82歳まで生きる場合
年金を65歳ではなく70歳まで繰り下げて受け取ると、月額は最大42%増になります(後述の計算式による)。一方で、65歳〜70歳の5年間は一切もらえません。この「増額」と「もらえない期間」を天秤にかけると、総受給額で繰下げが有利になるのは「約82歳」まで生きる場合です。82歳を超えて長生きするなら繰下げのほうが総額で得、それ以前なら65歳からもらい始めたほうが得——というのがこの記事の結論です。
ステップ1:繰下げ増額率の公式(根拠)
老齢年金(基礎年金・厚生年金)の支給開始を遅らせると、遅らせた期間に応じて受給額が増えます。その割合は法律で次のように決まっています。
| 繰下げ期間 | 月額の増加率 | 計算式 |
|---|---|---|
| 1ヶ月 | 0.7%増 | 増額後月額 = 基本月額 ×(1 + 0.7% × 繰下げ月数) |
| 12ヶ月(1年) | 8.4%増 | |
| 24ヶ月(2年) | 16.8%増 | |
| 36ヶ月(3年) | 25.2%増 | |
| 60ヶ月(5年・最大) | 42.0%増 |
増額後月額 = 基本月額 ×(1 + 0.007 × 繰下げ月数)
反対に、65歳より早く(60歳〜64歳で)受け取る「繰上げ受給」は、1ヶ月あたり0.5%減(年6%減)となり、最大5年繰り上げで最大30%減ります。つまり「待てば増え、早めれば減る」のが基本ルールです。なお、ここでの「基本月額」は、繰下げ・繰上げを一切しなかった場合の65歳時点の受給見込額です。
ステップ2:具体数値例で確認
まずは「老齢基礎年金(国民年金の満額)」から。令和6年度(2024年度)時点の満額は年781,200円(月額65,100円)です。これを70歳まで繰り下げた場合:
| ケース | 月額 |
|---|---|
| 65歳開始(基本) | 65,100円 |
| 66歳開始(12ヶ月繰下げ) | 約70,500円(8.4%増) |
| 70歳開始(60ヶ月繰下げ) | 約92,400円(42%増) |
次に、会社員として厚生年金にも加入していた人を想定します。夫婦2人で標準的に稼いだ場合の老齢厚生年金(基礎年金込み)の目安を月額15万円として、70歳まで繰り下げた場合を計算します(あくまで目安の例です)。
| ケース | 月額 | 年間 |
|---|---|---|
| 65歳開始(基本) | 15万円 | 180万円 |
| 70歳開始(60ヶ月繰下げ) | 21.3万円(42%増) | 255.6万円 |
月額が6.3万円増えるのは大きい一方で、65歳〜70歳の5年間(60ヶ月)は180万円×5年=900万円を受け取れないことになります。この差をどう読むかが、次の「分岐点」の計算です。
ステップ3:損得の分岐点を計算する
「繰下げたほうが得か」は、一生の総受給額できまります。月額15万円(基本)とし、X歳まで生きるとして総受給額を比べます。
- 65歳開始の場合:15万円 ×(X − 65)年分
- 70歳開始の場合:21.3万円 ×(X − 70)年分
両者が等しくなる X を解きます。
15 ×(X − 65)= 21.3 ×(X − 70)
15X − 975 = 21.3X − 1491 → 516 = 6.3X → X ≒ 81.9
つまり約82歳を超えて生きるなら、繰下げ(70歳開始)のほうが総受給額で得になります。82歳を目前に迎えるまでに「もらいそびれた900万円」を、82歳以降の増額分(月6.3万円)で取り戻すイメージです。
繰下げ期間が短いと分岐点はもっと若くなります。例えば67歳開始(24ヶ月繰下げ、月額16.8%増=17.52万円)なら:
15 ×(X − 65)= 17.52 ×(X − 67) → X ≒ 74.3
67歳開始なら約74歳が分岐点です。繰り下げ月数が少ないほど、早い段階で「得」のゾーンに入ります。
ステップ4:配偶者(遺族)への影響と、働く人の有利さ
① 遺族年金も増える
遺族厚生年金は、亡くなった方の老齢厚生年金の額をもとに計算されます。繰下げで月額が増えていれば、残された配偶者が受け取る遺族年金もその分だけ多くなります。単身者でなくとも、家族の備えとして繰下げのメリットがあります。
② 在職老齢年金との違い(働く人は有利)
65歳以降も働いて厚生年金保険料を払っている場合、65歳から支給される年金は「在職老齢年金制度」により、報酬と年金の合計が一定額を超えると支給停止になります。しかし繰下げ受給中はそもそも年金をもらっていないため、この支給停止の調整は発生しません。さらに繰下げ増額が上乗せされるため、70歳まで働く人には繰下げが有利に働くことが多いです。
注意点:繰下げは「長生き前提」の戦略
- 健康等で早め受給も選択肢:分岐点(約82歳)より前に亡くなる見込みが高い場合や、持病で長生きに不安がある場合は、65歳からもらい始めるほうが総額で得になります。「必ず繰下げが正解」ではありません。
- 手続きは60歳到達時に:繰下げの申出は、原則として60歳になったときに行います。一度繰下げを選ぶと、後からさかのぼって65歳分をもらうことはできません(遡及適用なし)。
- 将来額は目減りリスクあり:年金額は物価スライドや「マクロ経済スライド」により、将来減額される仕組みが働くことがあります。上の計算は現行満額(令和6年度基準)での目安です。
- 繰下げ中の生活資金を別途用意:70歳まで繰り下げると、65〜70歳の5年間は年金収入がありません。その期間を乗り切るための貯蓄、またはiDeCo・つみたてNISAなどの別資産が必要です。
関連ツールでさらに計算を深める
繰下げを考える前に、現役時代の手元に残る手取り額を把握し、貯蓄余力を確かめましょう。繰下げで増えた分を「もし運用していたら」と比べるなら複利積立シミュレーションが使えます。年金の仕組み自体は年金の繰下げ計算の基本や繰下げの損得を深掘りした記事にまとめています。並行して活用するならふるさと納税の上限目安もどうぞ。いずれもブラウザ内で計算し、入力した金額はどこにも送信されません。
注意事項
この記事は公的年金の仕組みをわかりやすく解説するためのもので、個別の年金相談に代わるものではありません。繰下げ増額率(0.7%/月)や満額(令和6年度 781,200円/年)などの数値は、制度改正や物価スライドにより変動することがあります。自身の年金見込額や、繰下げ・繰上げの申出手続きは、日本年金機構の「ねんきんネット」や最寄りの年金事務所でご確認ください。計算はすべてブラウザ内で行われ、入力した情報が外部に送信されることはありません。
よくある質問
年金を繰下げると月額はいくら増えますか?
繰下げる期間1ヶ月あたり、受給額が0.7%ずつ増えます(年換算で8.4%)。最大は70歳までの5年間(60ヶ月)繰り下げた場合で、月額が42%増えます。例えば65歳時点の月額が15万円なら、70歳開始で約21.3万円になります。
繰下げの損得は何歳まで生きるかで変わりますか?
はい。繰下げると増額される代わりに、繰り下げた期間は年金がもらえません。月額15万円を70歳まで繰り下げた場合、総受給額で「繰下げのほうが得」になるのは約82歳まで生きる場合です。それ以前に亡くなるなら、65歳からもらい始めたほうが総額では多くなります。
繰下げると配偶者(遺族)の年金も増えますか?
増えます。遺族厚生年金は、亡くなった方の老齢厚生年金の額をもとに計算されるため、繰下げで月額が増えていれば、残された配偶者が受け取る遺族年金もその分だけ多くなります。単身者だけでなく、配偶者の備えとしても繰下げのメリットがあります。
65歳を過ぎて働いている場合、繰下げは得ですか?
働いて厚生年金保険料を払っている(在職)場合、65歳から支給される年金は「在職老齢年金制度」で支給停止になることがあります。しかし繰下げ受給中はそもそも年金をもらっていないため支給停止の調整は発生せず、かつ繰下げ増額が上乗せされるため、働く人には有利に働くことが多いです。