残業代の計算方法:月給から1時間あたりの割増賃金を出す手順(1.25倍・1.5倍の使い分け)

2026-08-17 | 手取り 家計 計算 社会保険

便利箱編集部 | 編集方針・情報の確認

「今月は20時間残業したのに、給与明細の残業代が合っている気がしない」——そう感じたとき、自分で1時間あたりの割増賃金を計算し直せば、明細の数字を検算できます。この記事では、月給制の会社員が残業代(割増賃金)を1円単位で自分で計算する手順を、具体的な数値で追います。

最大のポイントは、残業代の元になる「1時間あたりの賃金」は、月給をそのまま使わないことです。通勤手当や家族手当は計算から除外でき、割る数は「実際に働いた時間」ではなく「月平均の所定労働時間」を使います。ここを間違えると、1時間あたりで数百円、月20時間で数千円のズレが出ます。手取り全体の計算は 手取り計算ツール でも確認できます。

ステップ1:算定基礎になる賃金を切り出す

割増賃金の計算に使う月給は、「支給総額」ではなく「算定基礎賃金」です。法令で除外が認められているのは、次の限定列挙のみです。

逆に、役職手当・資格手当・皆勤手当・精皆勤手当・営業手当などは除外できません。また「家族手当」という名前でも、扶養人数に関係なく全員に一律支給されているものは除外できず、算定基礎に含めます。名称ではなく支給の実態で判断するのが原則です。

項目金額算定基礎
基本給相当275,000円含む
家族手当(扶養2人)10,000円除外できる
通勤手当(実費)15,000円除外できる
支給総額300,000円—
算定基礎賃金275,000円—

自分の明細では、支給欄の合計から上記の除外できる手当だけを引いてください。

ステップ2:月平均所定労働時間を求める(ここが最も間違えやすい)

1時間あたりの賃金を出すために月給を割る数は、その月に実際に働いた時間ではありません。年間の所定労働時間を12で割った「月平均所定労働時間」を使います。

月平均所定労働時間 = 年間所定労働日数 × 1日の所定労働時間 ÷ 12
= 240日 × 8時間 ÷ 12 = 160時間

年間所定労働日数は、365日から会社の休日(土日・祝日・年末年始など)を引いた日数です。完全週休2日+祝日休みなら、おおむね240〜250日の範囲に入ります。この数字が大きくなるほど1時間あたりの賃金は下がるため、就業規則の年間休日数を確認してください。年間所定245日なら 245×8÷12=163.33時間になり、1時間あたりの賃金は約1,684円に下がります。

ステップ3:1時間あたりの賃金と割増単価を計算する

1時間あたりの賃金 = 275,000円 ÷ 160時間 = 1,718.75円
通常の時間外(1.25倍)= 1,718.75 × 1.25 = 2,148.44円

1円未満の端数は、労働者に不利にならないよう切り上げるのが実務上の扱いです(この例なら2,149円)。切り捨てると賃金の一部不払いになるためです。

労働の種類割増率1時間あたり20時間分
法定時間外(1日8時間・週40時間超)1.25倍2,148.44円約42,969円
法定休日労働1.35倍2,320.31円約46,406円
時間外+深夜(22時〜翌5時)1.50倍2,578.13円約51,563円
月60時間を超える時間外1.50倍2,578.13円約51,563円
法定休日+深夜1.60倍2,750.00円約55,000円

注意したいのは、深夜割増は「時間外かどうか」とは別に加算される点です。所定労働時間内であっても22時以降に働けば0.25倍の深夜割増が付き、時間外労働が深夜に及べば 1.25+0.25=1.5倍になります。

ステップ4:月60時間超の割増を検算する

1か月の時間外労働が60時間を超えた部分は、割増率が1.5倍に引き上げられます。月80時間残業した場合を計算してみます。

60時間まで = 2,148.44 × 60 = 128,906円
60時間超の20時間 = 2,578.13 × 20 = 51,563円
合計 = 180,469円
(すべて1.25倍で計算した場合 = 171,875円 → 差額 8,594円)

つまり60時間超の割増を反映していない明細は、この例で月約8,600円少なく計算されていることになります。長時間残業が続く月は、この境界を必ず確認してください。なお法定休日の労働時間は、この「60時間」のカウントには含めません。

ステップ5:残業代の手取りはいくら増えるか

残業代は総支給額に加算されるため、社会保険料と税金が差し引かれてから手元に届きます。20時間分の42,969円で概算します。

項目金額備考
残業代(総支給の増加)42,969円1.25倍 × 20時間
社会保険料▲約6,231円約14.5%(等級が上がった場合)
所得税・住民税▲約8,594円合計20%前後の想定
手取りの増加約29,000円総支給の約68%

「20時間残業して4.3万円のはずが、明細の手取りは3万円弱しか増えていない」のは、計算間違いではなくこの控除が原因です。社会保険料の内訳は 社会保険料の計算方法、税率の考え方は 限界税率と手取り で詳しく確認できます。

なお社会保険料は「標準報酬月額」の等級で決まるため、残業代が増えた月にすぐ保険料が上がるわけではありません。原則として4〜6月の平均で決めた等級が9月から1年間適用されます(定時決定)。固定的賃金の変動を伴わない残業代の増減だけでは随時改定の対象になりません。逆に言えば4〜6月に残業が集中すると、その年の社会保険料が1年間高くなるという影響があります。

ステップ6:未払いがある場合の金額感

仮に月2万円の残業代が支払われていなかった場合、賃金請求権の時効は3年(2020年4月以降に支払期日が到来する賃金)です。2年分でも 20,000×24=480,000円、3年分なら72万円に達します。自分で計算できるようにしておく価値は、この金額感からも明らかです。

検算のために保存しておきたいのは、①給与明細(支給内訳と残業時間)、②就業規則・賃金規程(年間所定労働日数と手当の定義)、③タイムカードや勤怠記録の控えの3点です。

関連する計算

注意事項

本記事の数値は、残業代の計算方法を説明するためのモデルケースです。実際の割増賃金は、就業規則・賃金規程に定められた1日の所定労働時間と年間所定労働日数、各手当が算定基礎に含まれるかの実態判断、変形労働時間制やフレックスタイム制・事業場外みなし労働時間制などの適用、管理監督者の該当性、月60時間超の割増や代替休暇の運用によって変わります。社会保険料・所得税・住民税の控除率も、加入している健康保険の種類・都道府県の保険料率・標準報酬月額の等級・扶養状況・課税所得によって個人差があります。正確な金額はご自身の給与明細・就業規則および勤務先の給与担当部署でご確認ください。未払い賃金の請求など個別の労務問題については、労働基準監督署や弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。本記事は情報提供を目的とし、法律相談や個別の労務相談に代わるものではありません。

よくある質問

残業代の計算式は?

「1時間あたりの賃金 × 割増率 × 残業時間」です。1時間あたりの賃金は「月給(算定基礎に含める手当のみ)÷ 1か月の平均所定労働時間」で求めます。月平均所定労働時間は「年間所定労働日数 × 1日の所定労働時間 ÷ 12」です。例:年間240日・1日8時間なら 240×8÷12=160時間。

月給の残業代は1時間いくら?

家族手当1万円・通勤手当1.5万円を除いた算定基礎が27.5万円の場合、月平均所定160時間なら 275,000÷160=1,718.75円が1時間あたりの賃金です。通常の時間外労働(1.25倍)なら 1,718.75×1.25=2,148.44円(1円未満は労働者有利に切り上げて2,149円とするのが一般的な扱い)になります。

残業20時間で残業代はいくら?

上の例(1.25倍・2,148.44円)で20時間なら 2,148.44×20=約42,969円が総支給の増加分です。ただし残業代にも社会保険料(約14.5%)と所得税・住民税(合計20%前後の人が多い)がかかるため、手取りの増加は約29,000円前後にとどまります。「残業代がついたのに思ったほど増えない」のはこのためです。

残業代の割増率は何%?

法定時間外(1日8時間・週40時間超)は25%以上(1.25倍)、深夜(22時〜翌5時)は25%以上の深夜割増が加算され時間外と重なると50%以上(1.5倍)、法定休日労働は35%以上(1.35倍)、法定休日の深夜は60%以上(1.6倍)です。さらに1か月60時間を超える時間外労働は50%以上(1.5倍)に引き上げられます。

通勤手当や家族手当は残業代の計算に入る?

入りません。割増賃金の算定基礎から除外できるのは、家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われる賃金・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)に限られます。逆に役職手当・資格手当・皆勤手当・営業手当などは算定基礎に含めなければなりません。会社が広く手当を除外している場合、計算が誤っている可能性があります。

月60時間を超えるとどれくらい変わる?

上の例で月80時間残業した場合、60時間分は1.25倍(2,148.44×60=約128,906円)、超過20時間分は1.5倍(2,578.13×20=約51,563円)で合計約180,469円。すべて1.25倍で計算した約171,875円との差は約8,594円です。この差額が支払われていない給与明細は、計算漏れの疑いがあります。

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