残業代の計算方法——1時間単価は月給÷163.33時間、月給30万なら1,837円(1.25/1.5/1.35倍の使い分けと手取り72.5%を1円単位で)
「自分の残業代、これって合ってる?」——給与明細の「時間外手当」欄を見て、その金額がどう計算されたのか説明できる人は多くありません。検索する人の悩みははっきりしています。時給いくらで計算されているのか分からない、1.25倍なのか1.5倍なのか分からない、通勤手当や家族手当は含めるのか分からない。そして計算が1円ずれるだけで、年間では数万円の差になります。
この記事では、労働基準法第37条と施行規則第21条を根拠に、残業代の1時間単価の出し方から割増率の使い分け(時間外1.25/月60時間超1.5/深夜+0.25/法定休日1.35)まで、月給30万円のモデルで1円単位に計算します。さらに、会社が間違えやすい「除外できる手当は5種類だけ」という落とし穴と、残業代が増えたときに手取りは何割残るのかまでを具体数値で示します。
ステップ1:1時間あたりの単価を出す(ここが全ての土台)
割増賃金は「時給 × 割増率 × 時間数」で出しますが、月給制の人には時給がありません。そこで労働基準法施行規則第19条は、月給者の1時間単価を次の式で求めると定めています。
1か月平均所定労働時間 = (365日 − 年間休日) × 1日の所定労働時間 ÷ 12
ポイントは分母が「その月の実際の労働時間」ではなく、年間で平均した固定値だということです。2月は日数が少なく8月は多いので、月ごとに分母を変えると同じ残業1時間の価値が月によって変わってしまいます。それを防ぐために年間平均を使います。
年間休日120日・1日8時間の会社なら:
月給の内訳を「基本給26万円+役職手当2万円+資格手当2万円+通勤手当1.5万円+家族手当1万円=合計31.5万円」とすると、算定基礎に入るのは通勤手当と家族手当を除いた30万円です(除外の根拠は次章)。
端数処理は、行政解釈で「1円未満の端数を切り上げる」処理が認められています(切り捨ては労働者に不利になるため原則不可)。この1,837円が、以下すべての計算の土台になります。
ステップ2:算定基礎から除外できる手当は「限定列挙」の7種類だけ
単価を下げたい会社にとって都合がいいのは、分子(算定基礎)を小さくすることです。しかし労働基準法第37条第5項と施行規則第21条は、除外できる賃金を限定列挙しています。ここに挙がっていないものは必ず算定基礎に入れなければなりません。
| 除外できる(7種類のみ) | 除外できない(例) |
|---|---|
| ① 家族手当(扶養人数に応じて支給) | 役職手当・職務手当 |
| ② 通勤手当(実費・距離に応じて支給) | 資格手当・技能手当 |
| ③ 別居手当 | 皆勤手当・精勤手当 |
| ④ 子女教育手当 | 地域手当 |
| ⑤ 住宅手当(住宅費に応じて支給) | 物価手当・調整手当 |
| ⑥ 臨時に支払われた賃金 | 一律定額の「住宅手当2万円」 |
| ⑦ 1か月を超える期間ごとに支払う賃金(賞与など) | 名称だけ「家族手当」で全員一律の手当 |
重要な判定基準:①②⑤は「個人の事情に応じて額が変わる」ことが条件です。全員に一律2万円払う「住宅手当」は、住宅費と連動していないので除外できません。名称ではなく実質で判定されます。
では、誤って通勤手当1.5万円と家族手当1万円まで算定基礎に入れた(あるいは逆に、役職手当・資格手当を勝手に除外した)場合の差を見ます。仮に会社が算定基礎を「基本給26万円のみ」としたら:
月20時間の差 = 244 × 1.25 × 20 = 6,100円/月 = 年 73,200円 の未払い
逆に、除外手当まで含めて計算すると単価は1,990円(+153円/h)になり、月20時間で3,825円多くなります。どちらにしても「算定基礎に何が入っているか」を明細で確認する価値は年数万円です。
ステップ3:割増率の使い分け(1.25/1.5/1.35/深夜+0.25)
労働基準法第37条が定める割増率は次のとおりです。重要なのは「時間外」と「休日」と「深夜」は別カテゴリで、重なると足し算になるという点です。
| 区分 | 割増率 | 単価1,837円のときの1時間額 |
|---|---|---|
| 法定時間外(1日8時間・週40時間超) | 1.25 | 2,297円 |
| 法定時間外のうち月60時間を超える部分 | 1.50 | 2,756円 |
| 深夜(22時〜翌5時)のみ | 1.25 | 2,297円 |
| 時間外+深夜 | 1.25+0.25=1.50 | 2,756円 |
| 月60時間超+深夜 | 1.50+0.25=1.75 | 3,215円 |
| 法定休日労働 | 1.35 | 2,480円 |
| 法定休日+深夜 | 1.35+0.25=1.60 | 2,939円 |
| 所定休日(法定外休日)の労働 | 週40時間内なら1.00、超えたら1.25 | 1,837円/2,297円 |
見落としやすい3点を押さえておきます。
- 法定休日は週1日だけ。週休2日の会社で土日休みなら、就業規則で「日曜が法定休日」と決めていれば土曜の出勤は1.35倍ではなく時間外扱い(1.25または1.00)です。土曜出勤を1.35で請求すると計算が合いません。
- 法定休日労働には「時間外」の概念がない。法定休日に10時間働いても、8時間を超えた2時間が1.35+0.25になることはなく、全10時間が1.35倍(深夜帯だけ1.60)です。
- 月60時間超の1.5倍は2023年4月から中小企業にも適用。以前は大企業だけの規定だったため、古い就業規則のまま1.25で計算している会社があります。
月70時間の時間外をしたケースで、正しい計算と「全部1.25」の誤りを比べます。
誤り(全70時間を1.25):1,837×1.25×70 = 160,738円
差額 = 4,592円/月
残業代(割増賃金)シミュレーター
月給の内訳と残業時間を入れると、1時間単価・区分別の割増賃金・手取りの増加分まで計算します。すべてブラウザ内で計算され、入力内容はどこにも送信されません。
手取りベースで見ると残業代は何割残るのか
「残業して45,925円もらった」と「手取りが45,925円増えた」は別の話です。残業代は標準報酬月額の対象にも、所得税・住民税の対象にもなります。単価1,837円・月20時間のモデルで追ってみます。
| 項目 | 金額 | 根拠 |
|---|---|---|
| 残業代(額面) | 45,925円 | 1,837×1.25×20 |
| 社会保険料 | −6,728円 | 14.65%(健保4.95+厚年9.15+雇用0.55) |
| 所得税 | −2,001円 | (45,925−6,728)×5%×1.021 |
| 住民税 | −3,920円 | (45,925−6,728)×10% |
| 手取りの増加 | 33,276円 | 額面の72.5% |
年間では額面551,100円に対し手取り増は約399,300円です。所得税率が20%の層(課税所得330万円超)なら手取り率は約60%まで落ちます。「残業を1時間減らして失う手取り」は額面の6〜7割と覚えておくと、副業や時短の判断材料になります(関連:限界税率で手取りを考える記事)。
もう一つ重要なのは、残業代が社会保険料の標準報酬月額に反映される点です。4月〜6月の残業が多いと9月からの1年間の社会保険料が上がる(定時決定)一方、その分将来の厚生年金額も増えます。保険料が上がるのは損だけではありません(計算根拠は標準報酬月額の記事と厚生年金額の記事を参照)。
よくある勘違いと注意点
- 「固定残業代(みなし残業)があるから残業代は出ない」:誤りです。固定残業代は何時間分でいくらか明示され、その時間を超えたら差額を支払うことが有効性の条件です。「月30時間分5万円」なら、31時間目からは通常どおり1.25倍で追加請求できます。金額と対応時間が明示されていない固定残業代は無効と判断された裁判例が多数あります。
- 「管理職だから残業代なし」:労働基準法第41条の管理監督者に該当する場合のみで、条件は「経営者と一体的な立場」「出退勤の自由」「地位に相応な待遇」です。名ばかり店長は該当せず、残業代が発生します。ただし管理監督者でも深夜割増(0.25)は必ず支払われます——ここは見落としが多い点です。
- 「1分単位で切り捨てられている」:日々の残業時間を15分・30分単位で切り捨てるのは違法です(1分単位が原則)。例外として、1か月の合計時間の30分未満を切り捨て・30分以上を切り上げる処理だけは認められています。毎日15分切り捨てられると、月20日で5時間=1,837×1.25×5=11,481円の未払いになります。
- 「年俸制なら残業代は含まれている」:含まれていません。年俸制でも時間外労働には割増賃金が必要で、年俸を12分割(または賞与込みで16分割)した月額を算定基礎に使います。
- 「36協定があれば何時間でも残業させられる」:上限は原則月45時間・年360時間、特別条項でも単月100時間未満・複数月平均80時間以内・年720時間以内です(2019年4月施行の罰則付き上限)。
- 請求できる期間は3年:賃金請求権の消滅時効は2020年4月以降に発生した分について3年(改正前は2年)です。過去分をさかのぼるなら給与明細とタイムカードの記録を残しておくことが前提になります。
関連する計算ツール・記事
- 標準報酬月額の計算——残業代が社会保険料に反映される仕組み。
- 限界税率と手取り——収入が増えたとき何割残るか。
- 毎月の源泉徴収税額——給与から引かれる所得税の計算。
- 年収500万円の手取り——残業込みの年収で手取りを確認。
- 厚生年金額の計算——保険料が上がる分、将来の年金も増える。
- 計算ツール一覧——手取り・税金・ローンの計算ツール。
よくある質問
残業代の1時間単価はどう計算しますか?
「算定基礎となる月給 ÷ 1か月平均所定労働時間」で計算します。1か月平均所定労働時間は「(365日−年間休日)×1日の所定労働時間÷12」です。年間休日120日・1日8時間なら163.33時間になり、算定基礎が月30万円なら1時間単価は1,837円(1円未満切り上げ)です。この単価に割増率と時間数を掛けたものが残業代になります。
割増率は1.25倍と1.5倍のどちらですか?
法定時間外労働(1日8時間・週40時間超)は1.25倍です。ただし1か月の時間外が60時間を超えた部分は1.5倍になります(2023年4月から中小企業にも適用)。深夜(22時〜翌5時)に及ぶ部分はさらに0.25が上乗せされ、時間外+深夜なら1.5倍、60時間超+深夜なら1.75倍です。法定休日の労働は1.35倍(深夜なら1.6倍)です。
通勤手当や家族手当は残業代の計算に含まれますか?
含まれません。労働基準法第37条第5項と施行規則第21条で、算定基礎から除外できるのは①家族手当②通勤手当③別居手当④子女教育手当⑤住宅手当⑥臨時に支払われた賃金⑦1か月を超える期間ごとに支払う賃金(賞与など)の7種類に限られます。役職手当・資格手当・皆勤手当などは必ず算定基礎に含めなければなりません。また①②⑤は個人の事情に応じて額が変わることが条件で、全員一律定額の「住宅手当」は除外できません。
残業代が45,925円だと手取りはいくら増えますか?
額面45,925円に対して、社会保険料が約6,728円(14.65%)、所得税が約2,001円(税率5%の場合)、住民税が約3,920円引かれ、手取りの増加は約33,276円(額面の72.5%)です。所得税率20%の層(課税所得330万円超)なら手取り率は約60%まで下がります。
固定残業代(みなし残業)がある場合、追加の残業代は請求できませんか?
請求できます。固定残業代が有効とされるには「何時間分でいくらか」が明示され、その時間を超えた分は差額を支払うことが条件です。「月30時間分5万円」なら31時間目からは通常どおり1.25倍の割増賃金が発生します。金額と対応時間が明示されていない固定残業代は無効と判断された裁判例が多数あります。
残業時間を15分単位で切り捨てられていますが違法ですか?
日々の残業時間を15分・30分単位で切り捨てるのは違法です(1分単位が原則)。例外として認められるのは、1か月の合計時間について30分未満を切り捨て・30分以上を切り上げる処理だけです。毎日15分切り捨てられると月20日で5時間、単価1,837円なら11,481円の未払いになります。なお賃金請求権の時効は2020年4月以降の分について3年です。
管理職なら残業代は出ないのですか?
労働基準法第41条の「管理監督者」に該当する場合のみ時間外・休日の割増賃金が不要になります。該当するには経営者と一体的な立場、出退勤の自由、地位に相応な待遇が必要で、いわゆる名ばかり店長は該当しません。また管理監督者であっても深夜割増(0.25)は必ず支払われます。