家を売った税金はいくら? 5,800万円で売って税額0円になる3,000万円特別控除の計算(控除なしなら5,567,366円)
「家を売ったら、税金はいくら取られるんですか?」——住み替え、離婚、相続した実家の処分、転勤。理由はさまざまですが、マイホームを売る人が最初にぶつかるのがこの疑問です。ところが調べ始めると「譲渡所得」「取得費」「減価償却」「3,000万円特別控除」「軽減税率」と専門用語が並び、結局いくら払うのか分からないまま不動産会社の言い値で進んでしまう——これが一番損をするパターンです。
結論から言えば、マイホーム(居住用財産)を売った場合、譲渡所得から3,000万円を差し引ける特別控除があるため、ほとんどのケースで税額は0円になります。逆に、この控除を知らずに、あるいは適用漏れで申告すると、下のモデルでは5,567,366円を払うことになります。500万円以上の差が、たった1枚の確定申告書で決まります。
まず、譲渡所得の計算式(ここがすべての出発点)
不動産を売ったときの税金は、売却価格に課税されるのではありません。「もうけ(譲渡所得)」に課税されます。
譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用 - 特別控除(最高3,000万円)
用語を1つずつ潰します。
- 売却価格:買主から受け取る金額。固定資産税の精算金も含めます。
- 取得費:買ったときの価格+購入時の仲介手数料・登記費用・不動産取得税など。ただし建物は減価償却で目減りします(後述。ここが最大の落とし穴)。
- 譲渡費用:売るためにかかった費用。仲介手数料、印紙税、測量費、建物の取壊し費用、借家人への立退料など。引越し費用や住宅ローンの一括返済手数料は含みません。
- 特別控除:マイホームなら最高3,000万円(居住用財産の譲渡所得の特別控除/租税特別措置法第35条)。
そして税率は所有期間で2段階に分かれます。売った年の1月1日時点で判定するのがポイントです(売却日ではありません)。
| 区分 | 所有期間(売却年1月1日時点) | 所得税 | 復興特別所得税 | 住民税 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 30% | 所得税×2.1% | 9% | 39.63% |
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 15% | 所得税×2.1% | 5% | 20.315% |
| 軽減税率(10年超のマイホーム) | 10年超+居住用 | 10%(6,000万円超部分は15%) | 所得税×2.1% | 4%(同5%) | 14.21% |
つまり同じもうけでも、4年11か月で売るか5年1か月で売るかで税率が倍近く変わります。急いでいないなら、1月1日を1回またぐだけで税額が半分になることを覚えておいてください。
最大の落とし穴:取得費は「買った値段」ではない(減価償却)
「4,500万円で買って5,800万円で売ったから、もうけは1,300万円」——これが最も多い誤解です。建物部分は使った年数だけ価値が減った前提で取得費を計算し直します。これを減価償却といい、非事業用(自宅)の場合は次の式です。
建物の減価償却費 = 建物の取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
「×0.9」は残存価額10%を残す扱い、償却率は構造ごとに法定されています(非事業用は事業用の1.5倍の耐用年数=償却率は小さめ)。
| 建物の構造 | 非事業用の償却率 | 参考:耐用年数 |
|---|---|---|
| 木造 | 0.031 | 33年 |
| 木骨モルタル造 | 0.034 | 30年 |
| 鉄骨造(骨格材3mm超4mm以下) | 0.025 | 40年 |
| 鉄筋コンクリート造(マンション) | 0.015 | 70年 |
モデルケース(木造・建物2,800万円・経過21年)で計算します。
28,000,000円 × 0.9 × 0.031 × 21年 = 16,405,200円
つまり建物の取得費は 28,000,000 − 16,405,200 = 11,594,800円 まで目減りします。土地は減価しないのでそのまま1,700万円。
| 項目 | 金額 | 根拠 |
|---|---|---|
| 売却価格 | 58,000,000円 | — |
| 建物取得費(償却後) | ▲11,594,800円 | 2,800万 − 減価償却費1,640.52万 |
| 土地取得費 | ▲17,000,000円 | 減価しない |
| 譲渡費用 | ▲2,000,000円 | 仲介手数料・印紙税等 |
| 譲渡所得(控除前) | 27,405,200円 | — |
| 居住用財産の特別控除 | ▲30,000,000円 | 租税特別措置法35条(控除は所得を超えない) |
| 課税譲渡所得 | 0円 | — |
| 税額 | 0円 | — |
感覚的な「もうけ1,300万円」に対し、税法上のもうけは2,740万円——2倍以上です。減価償却を無視すると、控除枠に収まるかどうかの判断自体を誤ります。
自宅売却の譲渡所得税シミュレーター
※所有期間は売却年1月1日時点で判定します。10年超かつ居住用なら軽減税率(6,000万円以下14.21%)も併記します。計算はブラウザ内で完結し、入力は送信されません。
3,000万円控除があるかないかで、いくら違うのか
同じ譲渡所得27,405,200円に対し、控除の有無・所有期間で税額を並べます。
| ケース | 課税譲渡所得 | 所得税 | 復興特別所得税 | 住民税 | 合計税額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 3,000万円控除あり(長期) | 0円 | 0円 | 0円 | 0円 | 0円 |
| 控除なし・長期(20.315%) | 27,405,200円 | 4,110,780円 | 86,326円 | 1,370,260円 | 5,567,366円 |
| 控除なし・短期(39.63%) | 27,405,200円 | 8,221,560円 | 172,652円 | 2,466,468円 | 10,860,680円 |
| 控除なし・10年超軽減(14.21%) | 27,405,200円 | 2,740,520円 | 57,550円 | 1,096,208円 | 3,894,278円 |
控除の有無だけで約557万円、短期保有で控除も使えないと1,086万円。マイホームの売却でここまで振れる理由は、譲渡所得が給与所得と分離して課税される(申告分離課税)ため、累進の緩やかさに救われないことにあります。
売却価格が高いとき:3,000万円で足りない場合の計算
控除枠を超えたぶんだけが課税されます。同じ取得費(28,594,800円)・譲渡費用200万円で、売却価格を変えて比較します。
| 売却価格 | 譲渡所得 | 控除後 | 長期20.315% | 10年超軽減14.21% |
|---|---|---|---|---|
| 5,800万円 | 27,405,200円 | 0円 | 0円 | 0円 |
| 6,800万円 | 37,405,200円 | 7,405,200円 | 1,504,366円 | 1,052,278円 |
| 9,000万円 | 59,405,200円 | 29,405,200円 | 5,973,666円 | 4,178,478円 |
9,000万円のケースで約179万円の差——これが「10年超所有の軽減税率(措置法31条の3)」の効果です。3,000万円控除と軽減税率は併用できます。所有10年超・居住用・売却年1月1日時点で判定、という条件を満たすなら、必ず両方を申告書に書いてください。
適用条件:ここを外すと3,000万円が消える
3,000万円特別控除は「自宅なら自動」ではありません。次の条件をすべて満たす必要があります。
- 自分が住んでいた家屋を売ること(家屋とともにその敷地を売る場合の土地も対象)。
- 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。2026年中に転居したなら、2029年12月31日が期限です。
- 売手と買手が親子・夫婦などの特別関係でないこと。生計を一にする親族、同族会社への売却は対象外です。
- 前年・前々年にこの控除(または特定居住用財産の買換え特例等)を受けていないこと。実質3年に1度しか使えません。
- 家屋を取り壊して土地だけを売る場合は、取壊しから1年以内に譲渡契約を締結し、かつ住まなくなってから3年目の年末までであること。加えて取壊し後に貸駐車場など他の用途に使っていないこと。
- その家屋が「控除を受けるためだけに入居した家」でないこと(一時的な入居、別荘は対象外)。
取得費が分からないとき:概算取得費5%の恐怖
相続した実家など、購入時の売買契約書が見つからないケースは珍しくありません。この場合、売却価格の5%を取得費とみなすことが認められています(概算取得費)。ただし、これは極めて不利です。
| 項目 | 実際の取得費が分かる場合 | 概算取得費5% |
|---|---|---|
| 売却価格 | 58,000,000円 | 58,000,000円 |
| 取得費 | 28,594,800円 | 2,900,000円 |
| 譲渡費用 | 2,000,000円 | 2,000,000円 |
| 譲渡所得 | 27,405,200円 | 53,100,000円 |
| 3,000万円控除後 | 0円 | 23,100,000円 |
| 税額(長期20.315%) | 0円 | 4,692,765円 |
契約書1枚の有無で約469万円。売却前に、購入時の売買契約書・領収証・住宅ローンの金銭消費貸借契約書・登記簿の抵当権設定額・通帳の振込記録・分譲時のパンフレットなど、取得価額を推認できる資料を徹底的に探してください。これらは税務署との交渉材料になり得ます(必ず認められるとは限りませんが、5%より有利な主張の根拠になります)。
共有名義なら控除は「1人につき3,000万円」
3,000万円控除は家屋の所有者ごとに適用されます。夫婦2分の1ずつの共有名義なら、控除枠は合計6,000万円です。
モデルケースの譲渡所得27,405,200円を夫婦で按分すると各13,702,600円。それぞれが3,000万円控除を使えるので当然0円ですが、売却価格が1億1,800万円(譲渡所得8,740万円)でも、共有なら各4,370万円→控除後1,370万円ずつとなり、単独名義(控除後5,740万円)より課税対象が大幅に小さくなります。
売却損が出たとき:損益通算と繰越控除
バブル期に高値で買った家を売ると、譲渡損失が出ることがあります。不動産の譲渡損失は原則として給与所得などと損益通算できません。ただしマイホームには2つの救済措置があります。
- 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算・繰越控除(措置法41条の5の2):売却時に住宅ローン残高があり、売却価格がローン残高を下回る場合、「ローン残高 − 売却価格」を限度に損失を給与所得等と通算でき、控除しきれない分は3年間繰り越せます。所有期間5年超が要件。
- 居住用財産の買換えに係る譲渡損失の繰越控除(措置法41条の5):売却して新たにローンでマイホームを買い換える場合、譲渡損失の全額を通算・3年繰越できます。
例:残高3,800万円のローンが残る自宅を3,000万円で売却(取得費・譲渡費用は無関係にローン基準)→ 通算限度は 38,000,000 − 30,000,000 = 8,000,000円。給与所得500万円の人なら、その年の課税所得を0円まで押し下げ、残りを翌年以降3年に繰り越せます。ただしこの特例も確定申告が絶対条件です。
いつ、何を申告するのか
不動産を売った年の翌年2月16日〜3月15日に確定申告します。税額が0円でも申告が必要です。用意する書類は次のとおり。
| 書類 | 入手先 | 用途 |
|---|---|---|
| 確定申告書 第一表・第二表 | 税務署/e-Tax | 本体 |
| 申告書 第三表(分離課税用) | 同上 | 譲渡所得の記載 |
| 譲渡所得の内訳書(土地・建物用) | 同上 | 計算根拠の明示 |
| 売買契約書の写し(売却時・購入時) | 自分の控え | 売却価格・取得費の証明 |
| 仲介手数料等の領収証 | 不動産会社 | 譲渡費用の証明 |
| 登記事項証明書 | 法務局(オンライン可) | 所有期間・持分の証明 |
| 戸籍の附票(住民票を移して2年超のとき) | 市区町村 | 居住していた事実の証明 |
チェックリスト:売る前に必ず確認する7項目
- 売却年の1月1日時点で所有期間は5年超か、10年超か。数か月の差なら年をまたぐ検討をする。
- 購入時の売買契約書はあるか。ないなら概算取得費5%で約470万円の増税リスク(上記)。
- 建物の構造と築年数。減価償却費を計算し、税法上の譲渡所得を先に把握する。
- 登記名義は単独か共有か。共有なら控除枠が人数分。
- 住み替えるなら、新居の住宅ローン控除と比較したか。併用不可なので損得計算が必須。
- 前年・前々年に同じ控除を使っていないか。3年に1度の制限。
- 翌年の住民税分の現金を残しているか。
関連する計算は住宅ローン計算ツール、手取り計算ツール、税金計算ツールでも確認できます。住み替えの総額比較は賃貸と持ち家の総コスト比較、住宅ローン控除の詳細は住宅ローン控除額の計算、固定資産税は固定資産税の計算が参考になります。
本記事は租税特別措置法第35条(居住用財産の譲渡所得の特別控除)、同31条の3(長期譲渡所得の軽減税率)、同41条の5・41条の5の2(譲渡損失の繰越控除)および所得税法の現行規定に基づく計算例です。税制は改正され、適用条件の判定には個別の事実関係が影響します。実際の申告は国税庁タックスアンサー(No.3302・3305・3355)を確認のうえ、税務署または税理士にご相談ください。
よくある質問
家を売ったら税金はいくらかかりますか?
マイホーム(居住用財産)なら3,000万円特別控除があるため、多くのケースで0円です。2005年に4,500万円(建物2,800万+土地1,700万・木造)で買った家を2026年に5,800万円で売り、譲渡費用200万円のモデルでは、減価償却費16,405,200円を引いた取得費が28,594,800円、譲渡所得は27,405,200円。ここから3,000万円を控除して課税譲渡所得0円=税額0円になります。控除を使わない場合は所得税4,110,780円+復興特別所得税86,326円+住民税1,370,260円=5,567,366円かかるため、控除の有無で約557万円の差が出ます。
3,000万円特別控除の適用条件は何ですか?
主な条件は6つです。①自分が住んでいた家屋(とその敷地)を売ること、②住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること、③売手と買手が親子・夫婦などの特別関係でないこと、④前年・前々年に同じ控除や買換え特例を受けていないこと(実質3年に1度)、⑤家屋を取り壊して土地だけを売る場合は取壊しから1年以内に譲渡契約を締結し、取壊し後に貸駐車場等へ転用していないこと、⑥控除を受けるためだけに入居した家や別荘でないこと。税額が0円になる場合でも確定申告をしないと適用されません。
取得費は買ったときの値段そのままではないのですか?
違います。建物部分は「取得価額×0.9×償却率×経過年数」で計算した減価償却費を差し引きます(非事業用の償却率は木造0.031、木骨モルタル0.034、鉄骨造0.025、鉄筋コンクリート0.015)。土地は減価しません。建物2,800万円・木造・21年経過なら 28,000,000×0.9×0.031×21=16,405,200円が償却され、建物の取得費は11,594,800円まで下がります。感覚的な「もうけ1,300万円」に対し税法上の譲渡所得は2,740万円と2倍以上になるため、減価償却を無視すると3,000万円の控除枠に収まるかどうかの判断自体を誤ります。
購入時の契約書が見つからない場合はどうなりますか?
売却価格の5%を取得費とみなす「概算取得費」が使えますが、極めて不利です。売却5,800万円のモデルでは概算取得費は2,900,000円にしかならず、譲渡所得は53,100,000円、3,000万円控除後も23,100,000円が残り、長期20.315%で4,692,765円の税金が発生します(実際の取得費が分かる場合は0円)。契約書1枚の有無で約469万円の差です。売買契約書・領収証・住宅ローンの金銭消費貸借契約書・登記簿の抵当権設定額・通帳の振込記録・分譲時パンフレットなど、取得価額を推認できる資料を必ず探してください。
3,000万円控除と住宅ローン控除は併用できますか?
できません。3,000万円特別控除を使うと、売却の年・その前年・前々年、および売却の翌年・翌々年に取得した新居について住宅ローン控除が受けられません。住み替えの場合は「売却益に対する税金がゼロになる金額」と「新居の住宅ローン控除13年分」を必ず比較してください。譲渡所得が控除なしでも0円やマイナス(売却損)になるなら、3,000万円控除は使わず住宅ローン控除を選ぶほうが有利です。一方、10年超所有の軽減税率(措置法31条の3)は3,000万円控除と併用できます。
所有期間が5年か10年かで税率はどう変わりますか?
売却した年の1月1日時点の所有期間で判定します。5年以下は短期譲渡所得で39.63%(所得税30%+復興0.63%+住民税9%)、5年超は長期譲渡所得で20.315%(15%+0.315%+5%)。さらに10年超かつ居住用なら軽減税率が使え、課税譲渡所得6,000万円以下の部分が14.21%(10%+0.21%+4%)になります。譲渡所得27,405,200円が控除なしで課税される場合、短期10,860,680円・長期5,567,366円・軽減税率3,894,278円と大きく違います。判定は売却日ではなく1月1日基準なので、年をまたぐだけで税額が半分になることがあります。
夫婦の共有名義だと控除は6,000万円になりますか?
なります。3,000万円特別控除は家屋の所有者ごとに適用されるため、夫婦2分の1ずつの共有なら合計6,000万円まで控除できます。譲渡所得8,740万円のケースでは、単独名義だと控除後5,740万円が課税対象ですが、共有なら各4,370万円から3,000万円を控除して1,370万円ずつになります。ただし控除は家屋の持分に応じて配分されるため、土地だけを配偶者が所有し家屋は単独名義という場合、配偶者側は原則使えません(家屋所有者の控除に残額があるときに限り配分される特例があります)。登記事項証明書で名義を確認してください。
売却して損が出た場合、給与所得と相殺できますか?
原則できませんが、マイホームには2つの特例があります。①特定居住用財産の譲渡損失の損益通算・繰越控除(措置法41条の5の2)は、売却時に住宅ローン残高があり売却価格がそれを下回る場合、「ローン残高−売却価格」を限度に給与所得等と通算でき、残りを3年繰り越せます(所有5年超が要件)。②居住用財産の買換えに係る譲渡損失の繰越控除(措置法41条の5)は買い換える場合に譲渡損失の全額を通算・3年繰越できます。残高3,800万円のローンが残る家を3,000万円で売れば通算限度は800万円です。いずれも確定申告が絶対条件です。