年金を繰下げ・繰上げするといくら増減する? 受給開始年齢ごとの月額と「損得分岐点」を1円単位で計算する
「年金、65歳からもらうのが当たり前? でも遅らせたり早めたりできるって聞いたけど、実際いくら増減するの?」——老後設計で誰もが直面する問いですが、ネットでは「繰下げは得」「繰上げは損」という結論だけが並び、具体的に「何歳なら月額がいくらになるか」「生涯でもらえる総額が並ぶ分岐点は何歳か」を数値で追っている記事は意外と少ないものです。
この記事では、公的年金(老齢年金の報酬比例部分)を遅らせる(繰下げ)か早める(繰上げ)かで、月額がどの式で増減するかを、「本来月額20万円」を例に1円単位で計算します。自分の数字(本来月額)に当てはめて試したい場合は、手取り計算ツール で老後資金とのバランスを確かめられます(入力はどこにも送信されません)。
結論:月20万円なら、繰下げ70歳で28.4万円、繰上げ60歳で14万円
原則「65歳」を基準(本来月額)として、遅らせる・早める月数に応じた増減が一生続きます。
| 受給開始 | 遅らせ/早めた月数 | 増減率 | 月額(本来20万の場合) |
|---|---|---|---|
| 60歳(繰上げ) | 早め60ヶ月 | ▲30% | 140,000円 |
| 63歳(繰上げ) | 早め24ヶ月 | ▲12% | 176,000円 |
| 65歳(基準) | 0ヶ月 | ±0% | 200,000円 |
| 67歳(繰下げ) | 遅らせ24ヶ月 | +16.8% | 233,600円 |
| 70歳(繰下げ) | 遅らせ60ヶ月 | +42% | 284,000円 |
ポイントは、増減が「もらい始めた瞬間」だけでなく「その後ずっと」続くことです。繰下げれば毎月多くもらい続け、繰上げれば毎月少なくもらい続けます。だからこそ「長く生きるか短くなるか」で損得が逆転します。
ステップ1:全体のルール(基準は65歳)
公的年金には原則として「本来の支給開始年齢=65歳」があり、これをずらすと次のように増減します(令和の仕組み)。
- 繰下げ(遅らせる):65歳から70歳まで最大5年。1ヶ月あたり+0.7%(年+8.4%)。
- 繰上げ(早める):60歳から最大5年。1ヶ月あたり▲0.5%(年▲6.0%)。
- 増減の対象は「本来の月額(報酬比例部分)」で、この調整は一生(受給中ずっと)効きます。
注意点:ここでの「本来の月額」は、繰下げ・繰上げを一切しなかった場合の65歳支給額(報酬比例部分)を指します。定額部分(老齢基礎年金などの「額面」)も同様に増減の対象になりますが、記事では分かりやすく「本来月額」と総称して計算します。
ステップ2:計算式(増額・減額の式)
増減は「遅らせた/早めた月数」に応じた乗率で決まります。計算式は次のとおりです。
繰下げ月額 = 本来月額 ×(1 + 0.007 × 遅らせた月数)
繰上げ月額 = 本来月額 ×(1 − 0.005 × 早めた月数)
例えば本来月額20万円を「70歳まで(60ヶ月遅らせて)」繰下げすると、
200,000 ×(1 + 0.007 × 60)= 200,000 × 1.42 = 284,000円
逆に「60歳から(60ヶ月早めて)」繰上げすると、
200,000 ×(1 − 0.005 × 60)= 200,000 × 0.70 = 140,000円
となります。月額10万円なら繰下げ70歳で142,000円、繰上げ60歳で70,000円に、月額30万円なら繰下げ70歳で426,000円、繰上げ60歳で210,000円になります(いずれも乗率1.42/0.70で一定)。
ステップ3:増減率を月数ごとに並べる
| 遅らせ/早めた年数 | 繰下げの乗率(+) | 繰上げの乗率(▲) |
|---|---|---|
| 1年(12ヶ月) | ×1.084(+8.4%) | ×0.940(▲6.0%) |
| 2年(24ヶ月) | ×1.168(+16.8%) | ×0.880(▲12.0%) |
| 3年(36ヶ月) | ×1.252(+25.2%) | ×0.820(▲18.0%) |
| 4年(48ヶ月) | ×1.336(+33.6%) | ×0.760(▲24.0%) |
| 5年(60ヶ月) | ×1.420(+42.0%) | ×0.700(▲30.0%) |
繰下げは5年で+42%と大きく、繰上げは5年で▲30%と深く減ります。増減の「度合い」自体は年数に比例するため、自分の予定開始年齢(例:68歳なら3年繰下げ→×1.252)を上の表に当てはめるだけで月額が出ます。
ステップ4:生涯でもらえる総額が「並ぶ分岐点」を出す
「繰下げすれば月額は増えるけど、その分もらう期間が短くなる。結局どっちが総額で得?」——これを「65歳開始と比べて生涯総受給額が同じになる年齢(分岐点)」で測ります(物価・賃金の伸びを考慮しない「名目」ベースの概算)。
| 選択 | 月額 | 65歳開始と総額が並ぶ年齢(名目・概算) |
|---|---|---|
| 65歳開始(基準) | 200,000円 | —(基準) |
| 60歳開始(繰上げ) | 140,000円 | 約77歳 |
| 70歳開始(繰下げ) | 284,000円 | 約82歳 |
繰下げ70歳の場合、65歳からもらい始めた人より「もらい始めが5年遅い」分を、月額の差(84,000円)で取り返すのに約17年(65→82歳)かかります。繰上げ60歳の場合は逆に、65歳からより「5年多くもらった分(140,000円×60ヶ月)」が、月額の差(60,000円)で相殺されるのに約11.7年(65→77歳)かかります。
重要な補足:これは物価上昇や賃金伸びを無視した「名目」の分岐点です。実質購買力(インフレ)を考慮すると、将来の方が円の価値が下がる分、繰下げの有利な分岐点はさらに数歳遅く(「繰下げは85歳まで生きれば得」と言われる根拠)、繰上げの分岐点は早くなります。あくまで「ざっくりの目安」としてお使いください。
ステップ5:どんな人が繰下げ・繰上げに向くか
- 繰下げ向き:70歳まで働ける・健康に長生きしそう・配偶者に先立たれたあと備えたい、といった場合。増額分は「その後ずっと」もらえるため、長生きするほど有利です。
- 繰上げ向き:体調や事情で65歳より早く年金が必要・ごく短い期間しかもらえない見込み、といった場合。早くもらい始めれば総額で取りこぼすリスクは減ります(ただし月額は一生低いまま)。
- 夫婦の戦略:一方を繰下げ、他方を65歳開始にするなど、世帯全体の「長寿リスク」と「直近の資金繰り」を両立させる使い方もあります。
ここが誤解の多いポイント:3つの罠
- 「繰下げは後から元が取れるかだけで考える」:分岐点(約82歳)より長生きすれば総額で得ですが、それ以前に亡くなっても「損」というだけでなく、遺族厚生年金等の設計とも絡むため、単純比較は禁物です。
- 「繰上げは一時的な調整だと思う」:繰上げによる減額は、選んだ時点で一生(受給中ずっと)固定されます。後から「やっぱり元の月額に戻したい」は原則できません。
- 「基準は70歳だと思う」:あくまで基準(+0%/▲0%)は65歳です。70歳は「繰下げの最大」、60歳は「繰上げの最大」であって、65歳と比べて増減しているのです。
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年金の開始時期は、老後資金の不足分をどう埋めるかと直結します。老後資金2000万円の積立シミュレーション で、年金以外にいくら必要かを確かめ、つみたてNISAの受取額 や iDeCoの手取り増加額 と組み合わせるのが現実的です。現役時代の手取り(年金の原資となる所得)は 手取り計算ツール で確認できます。いずれもブラウザ内で計算し、入力した金額はどこにも送信されません。
注意事項
本記事の数値は、公的年金(老齢年金の報酬比例部分を想定)の令和の繰下げ・繰上げルールをもとにした概算です。実際の増減率は、制度改正(毎年の法改正等)や、厚生年金と国民年金の違い、在職老齢年金(70歳超まで働く場合の報酬比例部分の加算)等によって変わります。また分岐点(約77歳・約82歳)は物価・賃金の伸びを考慮しない名目ベースの目安であり、実質購買力を考慮するとさらに数歳動きます。正確なご自身の年金額・繰下げ・繰上げの影響は、日本年金機構の「ねんきん定期便」や「年金開始時の裁定」、および 住民税の計算方法 等の公式情報が最終的な根拠になります。本記事は情報提供を目的とし、個別の年金相談や投資助言に代わるものではありません。
自分の本来月額に当てはめて月額を試したい場合は、上の式(×1.42/×0.70 等)を 電卓ツール で計算してください。すべてブラウザ内で処理され、入力はどこにも送信されません。
よくある質問
年金の繰下げ(受給を遅らせる)の増額率は?
65歳から70歳まで最大5年繰り下げると、1ヶ月あたり本来の月額の0.7%ずつ増え、最大で月額+42%(年8.4%×5年)になります。例えば本来月20万円なら、70歳からの受給で月28.4万円になり、この増額は一生続きます。
年金の繰上げ(早くもらう)の減額率は?
60歳から65歳まで最大5年繰り上げると、1ヶ月あたり本来の月額の0.5%ずつ減り、最大で月額▲30%(年6.0%×5年)になります。例えば本来月20万円なら、60歳からの受給で月14万円になり、この減額も一生続きます。
繰下げと繰上げ、どっちが得?
長生きするほど繰下げが有利、早く亡くなるほど繰上げが有利というのが基本です。生涯でもらえる総額が「繰り下げしない65歳開始」と並ぶ分岐点は、名目(物価・賃金の伸びを考慮しない)で、繰下げ70歳なら約82歳、繰上げ60歳なら約77歳です。ただし実質購買力(物価)を考慮すると、この分岐点はさらに数歳遅くなります。
計算式は?
繰下げの月額=本来月額×(1+0.007×遅らせた月数)、繰上げの月額=本来月額×(1−0.005×早めた月数)です。いずれも「本来の支給開始年齢(原則65歳)」を基準にした増減です。